
新設合併についてお調べですね。
新設合併とは新しく企業を設立し、当事企業の全ての資産を新設会社に引き継ぐ合併方法です。
1つの企業として同時にスタートを切れるので、合併後早期に拡大することができるМ&Aの手法となっています。
しかし、新設合併は手続きが非常に複雑で取引完了までに時間が必要です。
正しく理解しておかないと、取引完了までに非常に時間を要した結果失敗に終わる可能性もあるでしょう。
そこで今回は、新設合併の意味や吸収合併との違いについて詳しく確認していきます。
新設合併を深く理解し、自分の会社に合った適切な方法でスムーズにM&Aを実現させましょう。
目次
1.新設合併とは

新設合併は、M&Aで「合併」に分類される手法の一つです。
新設合併は、M&Aに関わる企業が協力して新しい企業を設立し、企業の持つ全ての資産を新しく作った会社に引き継ぐ方法となります。
ここでいう資産とは、有形無形に問わず従業員や負債などありとあらゆるものです。
そして、新しく設立した企業がそれぞれの会社にあった資産をそのまま引き継ぎます。
新設合併はどちらかに取り込まれるわけではないので売り手企業のネガティブな感情が少なく、双方の企業の独自性も担保されるのが特徴です。
しかし、実務上や余計なコストがかかるため、日本企業での実例は多くありません。
他のM&A手法と新設合併を比較したいという方は参考として以下の記事も読んでみてください。
ここからは吸収合併との違いを踏まえ、新設合併の特徴をより深く解説していきます。
2.新設合併と吸収合併の違い3つ

新設合併と混同し、間違えられやすい方法に『吸収合併』というものがあります。
吸収合併とは、新しく会社を作るのではなく、既存の会社に他の会社が吸収される形で合併を行う方法です。
違いがわかりにくいことで、どちらを選ぶべきか悩むことが多いですが、以下3つの大きな違いがあります。
- 存続する法人の違い
- 株主が受け取る対価の違い
- 許認可や免許を引き継げるかどうかの違い
難しいことは考えず、お互いの立場を平等に保ち合併を進めたいのであれば、上記の違いも加味して新設合併を選ぶのがおすすめです。
では、なぜおすすめなのかにも触れながら違いを確認し、理想的なM&Aの実現をイメージしてみましょう。
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違い1.存続する法人の違い
新設合併と吸収合併では、法人格の残り方に違いがあるのが特徴的です。
例えば、新設合併であれば、A社とB社の双方がなくなり、新しいC社として法人格を持ちます。
しかし、吸収合併ではA社がB社を取り込む形で合併することになるのです。
そうすると、法人格がなくなるのは双方ではなくB社のみ、今後はA社の法人格で経営が進むことになります。
このように、吸収合併においてはM&A後も残る会社、M&Aの時に消滅する会社という立場の違いが特徴的です。
平等な合併を実現するなら、新設合併のほうが向いているでしょう。
違い2.株主が受け取る対価の違い
新設合併とは異なり、吸収合併では以下のようなものが対価になり得ます。
- 現金
- 存続会社の株式
- 存続会社の社債
一方、新設合併の場合、対価は新設会社の社債もしくは株式に限定されます。
対価としてまとまった現金を受け取ることはできないので、M&Aをして現金を得たいという方には吸収合併の方が向いていると言えるでしょう。
違い3.許認可や免許を引き継げるかどうかの違い
許認可や免許の引き継ぎも、2つの方法の間で違いがあります。
新設合併の場合は、企業を新しく設立するので、許認可や免許の申請が必要です。
しかし吸収合併の場合、許認可や免許の申請が必要とされないケースが新設合併と比べ多くなります。
許認可や免許の取得・申請には1ヶ月以上要する場合もあるので、スピーディなM&Aを望むなら吸収合併も考えておきましょう。
ここまで、吸収合併と新設合併の異なる点について解説してきました。
合併に興味のある一方で、吸収合併と新設合併の違いについて悩む方は少なくありません。
どちらの合併方法が自分の会社に合っているのか、それぞれの特徴を踏まえて考えていきましょう。
次は、新設合併の特徴を踏まえ新設合併を活用したM&Aのメリットを解説していきます。
3.新設合併でM&Aをするメリット

新設合併でM&Aを行うメリットは以下の通りです。
- 2社の関係が対等になる
- シナジー効果を発揮しやすい
- 株主などからマイナスイメージを持たれにくい
どちらかがどちらかを吸収するのではなく、新しい会社を1から作るメリットは、特に会社や関係者との関係を重視するなら大きいと言えます。
それぞれのメリットを踏まえ、M&Aの戦略策定を進めましょう。
メリット1.2社の関係が対等になる
新設合併ではこれまでの実績やシステムをそのまま新設した会社に引き継ぐため、双方の企業が対等な関係を保つことができます。
吸収合併では消滅する企業と存続する企業で大きな立場の違いがあることから、派閥争いなどが起こる可能性も少なくありません。
あくまでも可能性の話ですから、必ずしもそうなるとは限りませんが、対等な立場で今後も経営していけるように吸収合併前から話し合いはしておきましょう。
もし、不安があるなら新設合併を視野に入れてみてください。
そうすることで、従業員も心機一転頑張れるので、合併を受け入れやすいでしょう。
メリット2.シナジー効果を発揮しやすい
新設合併では、シナジー効果が早期に発揮されやすいです。
シナジー効果とは2つの企業が協力し合うことによって、単独で行う以上の結果が生まれることを指します。
シナジー効果の意味や具体例についてさらに詳しく知りたい方は以下の記事も参考にしてください。
2つの企業が独自性を維持しながら合併できる新設合併では、新しい会社で自社には無かったノウハウや販路、設備を手に入れることが可能です。
新しい会社として一緒にスタートを切れば、2社間のシステム調整を上手く進めることで早期にシナジー効果を発揮できます。
一体どの程度のシナジー効果が得られるのかは、お互いの持つ技術や従業員などの無形資産によっても変わるでしょう。
仲介会社などの専門家を通して合併を検討すれば、具体的な目安やどれほどの効果が得られるのかまでアドバイスしてもらうことができるので依頼も視野に入れてみてください。
メリット3.株主などからマイナスイメージを持たれにくい
新設合併なら、パートナーとなる企業との上下関係が生まれないので株主からマイナスイメージを持たれることも少ないです。
M&Aで買収されることについてネガティブなイメージを持つ株主は少なくありません。
しかしそのイメージの要因の多くは、買収されることによって生じる上下関係によるものです。
新設合併で上下関係の無いM&Aが実現されると分かれば、M&Aにポジディブな印象を持つ株主も増えるでしょう。
以上が、新設合併のメリットでした。
新設合併最大のメリットは、多くのM&Aで問題となる買い手企業との上下関係が発生しないことです。
立場を同じにしてM&Aを実現させたい方は、新設合併を検討してみましょう。
次は、新設合併のメリットを活かして実際にM&Aを行った事例を解説していきます。
4.新設合併でM&Aを行った事例

日本では事例の少ない新設合併ですが、シナジー効果の発揮を目指して複数の企業が新設合併を行った事例もあります。
それが印刷機械メーカーとして有名な企業、富士ゼロックスの事例です。
富士ゼロックスマニュファクチュアリングが新設合併を選んだのは、バラバラである企業同士の良さを残しつつも、統合したいという目的があったからです。
富士ゼロックスは結果として、各社に分散していた業務や人材を集結させ、優秀なエンジニアを補強することに成功しました。
また、この新設合併により、生産力と技術力を格段に向上させています。
このように、個々の独自性を尊重しながらシナジー効果を高めたい場合に新設合併は有効な手段と言えるでしょう。
以上が新設合併の具体的な事例でした。
まだ国内において新設合併の事例は少ないですが、対等な関係でシナジー効果を発揮したいという企業には向いている手法です。
自分の会社には新設合併が合っているかもと感じている方は、このまま新設合併の手続きの流れを確認しておきましょう。
5.新設合併によるM&A手続きの流れ

新設合併によるM&A手続きの流れは、以下の通りです。
- 合併準備
- 取締役会決議
- 合併契約書の締結
- 官報公告・債権者への個別催告
- 株主総会招集通知の送付
- 株主総会決議の実施
- 合併の登記申請
新設合併の手続きでは、会社を1から作ることになるのでかなりの時間がかかります。
少しでも早く手続きを進めるため、手続きの流れを把握して専門家とともに必要な準備をしておきましょう。
流れ1.合併準備
まずは、新設合併の準備を行いましょう。
双方の企業は具体的に以下の2つについて確認しなければいけません。
- 合併契約の内容
- 債権者の確認
合併契約に関しては、双方の企業間で協議を行います。
協議の際にはM&Aに詳しい専門家とともに、慎重に条件を決めなければいけません。
双方の企業が最大限の利益を得られるよう、合併契約の内容協議には時間をかけましょう。
また、新設合併は株主総会の承認が必要です。新設合併を行う旨、今の会社は消失してしまう旨を債権者にあらかじめ説明し、理解をしてもらいましょう。
流れ2.取締役会決議
契約内容の確認と債権者への説明が終わったら、取締役会決議に移ります。
取締役会決議では合併契約書の内容の最終確認を行い、合併の条件などに問題がないかチェックします。
また、取締役会決議で新設合併に必要となる株主総会の招集決定も実施します。
流れ3.合併契約書の締結
取締役会決議で新設合併の承認が下りたら、契約書を締結します。
合併契約書に記載される内容は、以下の内容です。
- 設立会社・消滅会社の商号・住所
- 設立会社の商号、本店所在地、目的、発行可能株式総数等
- 設立会社の定款で定める事項
- 設立会社の役員の氏名
- 合併の対価と割当てに関する事項
上記の内容は、新設合併を行う上でもれなく記載する必要があります。専門家とともにひな型を確認して丁寧に進めましょう。
流れ4.官報公告・債権者への個別催告
双方の企業はそれぞれの債権者の保護のために、新設合併を行う際には官報公告を実施します。
官報公告では、以下の内容を掲載しなければいけません。
- 合併を実施する旨
- 消滅会社と設立会社の商号・住所
- 貸借対照表の要旨
- 債権者が一定期間異議を唱えることができる旨
官報公告と併せて、各債権者への催告も必要です。
定款で公告方法を日刊新聞紙や電子公告としている場合、債権者への催告は官報公告のほか定款の公告方法による公告を実施することで省略可能です。
しかし、公告方法が官報である場合は省略はできないので、全国官報販売協同組合に申し込んで公告を出しましょう。
流れ5.株主総会招集通知の送付
官報公告を実施したら、株主総会で株主の承認を得る準備として、株主総会の開催を株主へ通知します。
招集通知は、株主総会の1週間前までに送ってください。
ただし、上場企業、書面投票・電子投票を行う非上場企業は、2週間前までに株主へ通知を送らなければいけません。
また、新設合併に反対している株主に対しても同じように株主総会の収集通知を行う必要があります。
流れ6.株主総会決議の実施
株主を収集したら、株主総会で新設合併をするかどうかの決議を行います。
決議では、3分の2以上の賛成票が必要です。
もしこの株主総会で賛成票を得られなかった場合、新設合併は実施できません。
専門家の助言をもらいながら、株主に説明を行い再度決議を行うなど対処をしましょう。
株主総会で新設合併が可決された場合、新設合併に反対する株主は、株式の買取請求権を行使することが可能です。
反対株主から株式買取の申し出があった場合は、会社法に則り株式を適切な価格で買い取らなければいけません。
反対株主と協議を行い、細かな買取額を決めましょう。
ちなみに、株主総会決議の結果を受け新設合併を中止した際には、株式買取請求の効力は消失します。
流れ7.合併の登記申請
株主総会で新設合併の承認を得られたら、合併の登記申請を行いましょう。
新設合併を行うことで消失する会社と、新設する会社では登記の方法が異なります。
消滅会社の登記は、解散登記を実施し、新設合併の場合設立登記が必要です。
消滅会社、新設会社それぞれの登記で必要な書類は以下の通りです。
消滅会社の場合
- 消滅会社の登記事項証明書
- 合併契約の承認に関する株主総会議事録、あるいは取締役会議事録
- 債権者保護手続き関係書面
- 委任状
新設会社の場合
- 定款
- 設立した際の取締役の就任承諾を証明する書面
- 資本金の額の計上に関する証明書
- 登録免許税法施行規則第12条第5項の規定に関する証明書
- 委任状
それぞれで内容が大きく異なるので、登記を行う際は行政書士などの専門家に確認してもらいましょう。
以上が、新設合併の手続き方法でした。
新設合併の場合、合併で新しい会社を作る前にかなりの手続きが必要となります。
過去に新設合併のサポートを行ったことがある専門家に相談して手続きをなるべくスムーズに進めましょう。
次は、新設合併によるM&Aのデメリットを解説していきます。
6.新設合併によるM&Aのデメリット

新設合併でM&Aを行うことによるデメリットは、以下の通りです。
- 合併までの手続きに時間がかかる
- 会社設立にコストがかかる
- 対価が株式または社債になってしまう
新設合併のメリットは大きなものですが、手続きや対価の面で注意すべき点もあります。
新設合併でのM&Aを検討している方は、事前にデメリットを正しく把握しておきましょう。
デメリット1.合併までの手続きに時間がかかる
新設合併は手続きが非常に複雑で、少なくとも3ヶ月~半年ほどはかかります。
吸収合併の場合は1ヶ月半~2ヶ月ほどで完了するため、新設合併にかかる時間は2倍ほどだと言えるでしょう。
新設合併では新しく会社を設立し、双方の企業が保有していた免許・許認可・登録証・資格は全て消滅します。
そのため、事業に必要な免許や許認可、資格等は再度取得しなければいけません。
また上場企業の場合、再度上場審査を受ける必要があり、さらに時間がかかってしまいます。
免許や認許可などを多数持っている場合は、新設合併にかかる時間が長くなる可能性が高いので別の手法を検討したほうが良いでしょう。
デメリット2.会社設立にコストがかかる
新設合併の場合、新しい会社を作ることで発生する登記やその他登録申請などにかなりコストがかかってしまします。
会社を新しく作るのにかかるコストは、 定款認証代・印紙代、登録免許税、登記簿謄本代、印鑑証明書代などを含めて最低限25万円程度が必要です。
また会社設立にあたって専門家のサポートを別に受けた場合、その報酬も支払わなければいけません。
さらに資本金としてまとまったお金を用意しておく必要があるので、ある程度お金のある会社でなければ新設合併は難しいです。
デメリット3.対価が株式または社債になってしまう
新設合併は吸収合併と異なり、対価として現金を受け取ることはできません。
受け取ることができるのは新しく作る会社の株式や社債です。
もし新しくできた会社が早々に倒産してしまうと、対価をほとんど受け取れない可能性もあるでしょう。
M&Aの対価としてリタイア後の資金としても使える現金がほしい場合は、別のM&A手法を検討しましょう。
以上が、新設合併のデメリットでした。
新設合併で問題となるのは、会社設立にかかる手間です。
早期にシナジー効果を発揮したいと考えていても、新設合併の手続きをしているうちに長い時間が経ってしまうかもしれません。
新設合併で自分の望むM&Aが実現できるのか、M&Aの専門家と相談しつつ最適な方法を探していきましょう。
次は、新設合併を検討すべき会社の特徴を解説していきます。
7.新設合併がおすすめな会社の特徴

新設合併を検討すべき会社の特徴は、以下の通りです。
- 対等な関係を重視する企業
- シナジー効果を早く発揮したい企業
- M&Aにマイナスイメージを持たせたくない企業
M&A相手となる企業との関係を対等にしたい場合は、売り手と買い手の差がない新設合併は向いている手法だと言えるでしょう。
また、すぐにでもシナジー効果を発揮したい場合も、新設合併が向いています。
しかし、新しく会社を作る手間がかかる新設合併をあえて選ぶべき企業は現状少ないです。
もちろん新設合併を行う場合でも、専門家にアドバイスをもらうことで手続きを効率的に済ませることもできます。
しかし、やはり1から新しいシステムを作るより、既存の会社のシステムにもう1つの会社が合わせる吸収合併の方がスピーディです。
新設合併の事例は日本でもまだ少なく、「どうしても新設合併でなければいけない」という状況の企業はあまり無いと言えます。
対等な関係を望むなら、M&A交渉で従業員を平等に扱うよう条件を付けるという方法もあります。
また、他のM&A手法でもスピーディに手続きを済ませれば早い段階でのシナジー効果を狙うことが可能です。
新設合併が気になっている方は、先に専門家に相談し「自分の会社に新設合併が合っているのか」聞いてみましょう。
8.新設合併を検討するならM&A総合研究所へ

新設合併を検討したい方は、ぜひM&A総合研究所へご相談ください。
M&A総合研究所では、M&A手法に詳しい専任アドバイザーが、あなたの会社の情報を徹底的にチェックし最適なM&A方法を提案します。
また理想のM&Aを実現するためのパートナーとして膨大なネットワークから相性の良い買い手を紹介し、交渉にも同席いたします。
日本国内での事例が少ない新設合併を行うかどうかは、一度専門家に相談しなければいけません。
M&A総合研究所では、「そもそも新設合併をすべきか」「吸収合併とどちらが向いているのか」「他のM&A手法も検討すべきか」など、お客様のニーズに沿って様々なアドバイスを行います。
様々な手法を知るM&A総合研究所のアドバイザーに相談し、自分の会社にとってベストな方法を見定めましょう。
相談は全国無料となっており、お問い合わせは24時間受け付けております。
合併のことでお困りの方はぜひお問い合わせください。
9.まとめ
複数の企業がこれまでの法人格を消滅させ、一緒に新しい会社をスタートさせる新設合併。
M&A後も対等な関係で経営統合を行うことができるというメリットもありますが、新しく会社を作るにはコストがかかります。
対等な関係にこだわらないのであれば、新設合併ではなく吸収合併もおすすめです。
どんなM&A方法を選ぶべきかといった悩みについては、M&Aの専門家に相談しましょう。