
日本の会社形態の1つに、有限会社があります。有限会社の特徴から中小規模の事業を行うのに適しているとされていましたが、平成18年に施行された会社法によって、有限会社を新しく設立することはできなくなりました。
既存の有限会社は、規定の手続きを踏むことで株式会社に変更することもできますが、有限会社のまま残り続けている会社もあります。本記事では、有限会社をM&A・売却する方法や売却価格の計算方法、注意点を解説します。
目次
有限会社とは

有限会社とは、有限会社法によって設立された社団法人です。日本の会社の多くは株式会社ですが、具体的な違いにはどのようなものがあるのでしょうか。この章では、有限会社の特徴と株式会社との違いについて解説します。
現在は有限会社を作ることができない?
結論からいうと、有限会社の新規設立はできません。平成18年の会社法施行とともに有限会社法が廃止されたため、以後の設立はできなくなりました。
廃止前からの有限会社については、解散登記と設立登記をもって株式会社への変更が可能です。株式会社への変更は強制されておらず、特例有限会社として存続するケースもあります。
特例有限会社とは
特例有限会社とは、平成18年以前に有限会社であった会社を指します。実質的に株式会社であるものの、施行前の制度が一部適用されることから、区別するために特例有限会社としています。
特例有限会社であることのメリットには、「取締役の任期期限がない」「決算公告義務がない」などが挙げられます。
株式会社との違い
以前は、株式会社の設立に必要な資本金が1000万円ということもあり、小規模事業の立ち上げには有限会社が選択されることが多くみられました。しかし、株式会社の条件が大きく緩和され、メリットが大幅に薄れました。
有限会社(旧) | 株式会社(2006年) | |
資本金 | 300万円以上 | 1000万円以上 |
必要となる役員数 | 取締役1名 | 取締役3名・監査役1名・取締役会の設置 |
取締役の任期 | なし | 2年 |
社員上限 | 50名 | なし |
決定機関 | 社員総会 | 株主総会 |
有限会社(現在) | 株式会社(現在) | |
資本金 | 300万円以上 | 1円以上 |
必要となる役員数 | 取締役1名 | 取締役1名 |
取締役の任期 | なし | 2年(株式譲渡制限がある場合は最大10年) |
社員上限 | なし | なし |
決定機関 | 株主総会 | 株主総会 |
現在は、株式会社の設立に必要な資本金が1円となり、事業規模に関わらず株式会社を設立することになっています。
資本金は会社の信用度にも直結するため、1円ではなく100万円以上で設立するケースが多いですが、それでも以前の1000万円と比較すると大きくハードルが下がったことが分かります。
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有限会社はM&Aできる?

特例有限会社に関してですが、結論からいうとM&A・売却・買収は可能です。現在の有限会社の決定機関は株主総会です。
株主総会にて4分の3以上の賛成が得られれば会社の承認を得たことになり、有限会社のM&A・売却・買収が実現します。
また、有限会社のM&A・売却・買収の際には、定款の内容について確認しておくことも大切です。
定款変更について確認する
特例有限会社は、会社の承認が得られなければ株式譲渡することができません。ここで問題となるのは「何をもって会社の承認とするか」です。
通常、株主総会における決議をもって会社の承認となりますが、定款内容を変更することで会社の承認基準を変えてしまうことも可能です。
株主総会において4分の3以上の賛成を得たうえで、定款の会社の承認に関する事項を「代表者1人で承認」「過半数の同意で承認」などに変更します。
以降は、株主総会の決議を待たずとも株式譲渡・売却することが可能となり、自由にM&A・売却の話を進めることができるようになります。
株券発行会社について
株券発行会社とは、株券を発行に関する規定が定款に定められている株式会社のことです。平成18年の会社法施行前は、全ての株式会社が株券発行を義務付けられていました。
施行後は、特別な定めがない限り、株券を発行することができません。多くの有限会社も同様であるため、M&A・売却の際に株券に関する問題は、基本的に気にする必要はありません。
有限会社のM&Aの方法

有限会社のM&A・売却は可能であることが分かりましたが、実際に売却しようとした時に選択できる方法には、どのようなものがあるのでしょうか。この章では、有限会社のM&A・売却の方法について解説します。
【有限会社のM&A・売却方法】
- 株式譲渡にてM&A
- 事業譲渡にてM&A
- 会社合併にてM&A
- 吸収合併にてM&A
株式譲渡にてM&A
株式譲渡とは、保有する株式を第三者に譲渡することをいいます。過半数の譲渡をもって経営権が移転し、M&A・売却が達成されます。
通常、有限会社の株式譲渡には株主総会の決議が必要となりますが、定款に会社の承認基準に関する規定をしている場合、経営者の独断で株式譲渡をすることも可能です。
定款の変更にも株主総会の決議が必要ですが、既に定款の変更がされているのならば、円滑にM&A・売却を進めることができます。
株式譲渡のメリットは、経営権の移転に関する手続き自体は簡単であることです。有限会社が保有する資産全てを丸ごと譲渡することになるので、手掛けている事業もそのまま継続して行うことができます。
事業譲渡にてM&A
事業譲渡とは、事業の一部を切り離して譲渡・売却することをいいます。あくまで譲渡・売却対象は事業であるため、会社を売却することにはなりません。
同業種との競争の激化などから先行きが不安な事業を早めに清算したり、好業績の事業を高値で売却したり、譲渡・売却範囲を自由に選択できるメリットがあります。
しかし、株式譲渡と比較すると手続きが複雑であったり、売却益に対してかかる税金が高くなったり、といったデメリットも存在します。
会社合併にてM&A
会社合併は、「新設合併」と「吸収合併」があります。新設合併とは、合併する全ての法人格を消滅させ、新しく1つの法人格を誕生させる手法をいいます。なお、この時に誕生する会社の形態を有限会社とすることはできません。
吸収合併にてM&A
吸収合併とは、1つの法人格を消滅させ、片方が吸収する手法をいいます。有限会社の吸収合併は、有限会社を消滅会社としなければなりません。
これは、平成18年の会社法施行により有限会社が新規に設立できなくなったためです。原則として、存続会社を株式会社、消滅会社を有限会社とし、合併後に残る法人格は株式会社とする必要があります。
また、有限会社同士による合併の場合は、合併の効力が発生日よりも前に、株式会社への組織変更の登記をしなければなりません。管轄の法務局へ「株式会社設立登記」と「有限会社解散登記」を提出します。
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有限会社をM&Aする理由

有限会社のM&A・売却が多く見受けられる背景には、有限会社が抱える特徴があります。この章では、有限会社をM&A・売却する理由について解説します。
【有限会社をM&A・売却する理由】
- 後継者がいないため
- 現在、休業・休眠している
- 慢性的な人材不足
1.後継者がいないため
有限会社をM&A・売却する理由1つ目は、後継者がいないためです。そもそも有限会社を選択した目的には、用意する資本金が少なく済むことが考えられます。
小規模事業の展開を前提としていることが多く、会社の構成人数が少ない特徴があります。会社の構成人数が少ないことから、会社内に適任となる後継者をみつけることも難しく、後継者問題に悩まされている有限会社も少なくありません。
後継者が不在のまま進んでいくと、最終的には廃業・倒産という結果になってしまいます。M&A・売却であれば、後継者を悩まされることもなくなり、従業員が失業することもありません。有限会社の後継者対策としてもM&Aが注目を集めています。
2.現在、休業・休眠している
有限会社をM&A・売却する理由2つ目は、現在、休業・休眠しているです。一時的に休業している会社を休眠会社といい、税務署等に「異動届出書」の提出することで正式に休眠会社となります。
休眠会社とするきっかけには、後継者問題・高齢化などによる経営難が挙げられます。休眠会社とすることで、廃業にかかる手続きやコストが不要になるため、とりあえず休眠会社とするケースが多いです。
この傾向は、特に有限会社に強くみられます。休眠会社を廃業・倒産するよりは、M&A・売却による清算を選択する経営者の方が多くなっています。
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3.慢性的な人材不足
有限会社をM&A・売却する理由3つ目は、慢性的な人材不足です。少子高齢化などにより全国的に人材不足が深刻化しています。
人材不足から事業の存続が難しくなり、大手への売却・傘下入りを選択するケースも見受けられます。
また、人材不足問題を抱えているのは買い手側も同様です。どこの企業も人材を欲しており、労働力の確保を目的としたM&A・買収も多くなっています。
有限会社をM&Aする際に注意するポイント

この章では、有限会社をM&A・売却する際に注意するポイントを解説します。
【有限会社をM&A・売却する際に注意するポイント】
- 特例有限会社の上場について
- 株主資格を限定してる有限会社について
- 従業員の待遇
- 経営方針の変更
1.特例有限会社の上場について
有限会社をM&A・売却する際に注意するポイント1つ目は、特例有限会社の上場です。特例有限会社は譲渡制限株式であり、株式の譲渡・売却が認められていません。
株式上場は、証券取引所における株式の取引が可能であることが絶対条件であるため、特例有限会社は上場することができないことになります。
また、売却先を選定する際にも、事業拡大が難しいという点をリスクとして取られてしまうことがあります。
2.株主資格を限定してる有限会社について
有限会社をM&A・売却する際に注意するポイント2つ目は、株主資格の限定についてです。株主資格の限定とは、株式を第三者に譲渡・売却できないよう、定款に規定されていることを意味します。
有限会社のなかには家族経営を前提としている会社も多く、「株式の売却の必要性がない」「会社を守るため」などの理由によって、創業時に株主資格の限定をしている可能性があります。
定款にこのような規定がされている場合、改めて定款を変更しなければ株式譲渡・売却をすることはできません。
定款の変更には、株主総会の招集と議決権4分の3以上の賛成を必要とするため、結構な手間がかかってしまいます。
3.従業員の待遇
有限会社をM&A・売却する際に注意するポイント3つ目は、従業員の待遇です。有限会社のM&A・売却の際は、従業員も引き続き雇用されることが基本です。
というのは、買収側も人材を含めた事業全体を欲していることが多いためです。しかし、会社が保有する技術やノウハウを買収目的とすることもあります。
このケースでは、従業員の雇用形態が望んだ形にならないことも考えられるため、M&A・売却の交渉段階で確認しておかなければなりません。
4.経営方針の変更
有限会社をM&A・売却する際に注意するポイント4つ目は、経営方針の変更です。有限会社は、従業員同士が家族同然の付き合いをしている会社も多いです。
利益を出すことを最優先としない有限会社にとって、M&A・売却後の経営方針の変更による職場環境の一変は、つらいものとなる可能性も考えられます。
場合によっては、従業員が多大なストレスを感じてしまうこともあるため、売却先の経営方針の確認も重要です。
有限会社を買収する際のポイント

この章では、有限会社を買収する際のポイントについて解説します。
【有限会社を買収する際のポイント】
- 有限会社の買収はメリットが多い
- 特例有限会社の扱いは難しい
- 株式を利用した事業拡大が難しい
- 様々なポイントで定款の内容が関わる
1.有限会社の買収はメリットが多い
有限会社を買収する際のポイント1つ目は、有限会社の買収はメリットが多いことです。
有限会社の設立が認められていた当時、会社設立に必要となる資本金は「株式会社1000万円」に対して「有限会社300万円」でした。資本金から見ても、社会的信用度は株式会社の方が圧倒的に高いとされていました。
しかし法律改正を経て、現在の株式会社設立に必要な資本金は1円です。対して、特例有限会社の資本金は最低でも300万円であるため、社会的信用度は逆転しているといっても過言ではありません。
さらに、設立年数が10年以上経過している前提があり、相応の実績と信用を持っていることも意味します。また「取締役の任期期限がない」「決算公告義務がない」など特有のメリットも存在しています。
財政状況をオープンにする必要がない秘密性・閉鎖性が重視されることも多く、有限会社の買収理由に大きく起因しています。
2.特例有限会社の扱いは難しい
有限会社を買収する際のポイント2つ目は、特例有限会社の扱いは難しいことです。特例有限会社は存続自体は認められているものの、他社を買収することはできません。
また、会社合併などの際も必ず消滅会社としなければならないため、扱いが非常に難しく、事業拡大という面で難を抱えているといえるでしょう。
3.株式を利用した事業拡大が難しい
有限会社を買収する際のポイント3つ目は、株式を利用した事業拡大が難しいことです。会社を成長させる手段の1つに、IPO(株式上場)させて資金を調達する手段があります。
しかし、譲渡制限株式であるため株式の譲渡が認められておらず、IPOすることはできません。
4.様々なポイントで定款の内容が関わる
有限会社を買収する際のポイント4つ目は、様々なポイントで定款の内容が関わることです。
例えば、会社の承認や譲渡制限の規定が挙げられます。定款を変更していない場合、全て譲渡制限がかかっています。
制限を解除するためには、株主総会の普通決議をもって4分の3以上の賛成を得たうえで、定款を変更しなければなりません。
会社の承認の主体を株主総会以外に指定していると、株主総会の決議を行わずに株式の譲渡が可能です。ただし、会社の承認の主体を指定する際も株主総会の決議をもって定款を変更する必要がありました。
このように、定款に一切の手が加えられていない場合、買収の際に多大な手間がかかってしまうことが想定されます。可能ならば定款の変更が終わっている有限会社が好ましいといえるでしょう。
有限会社の売却額の相場

有限会社の売却にあたって検討材料として売却額の相場は把握しておきたい要素の1つです。
しかし、一般的に有限会社の売却額相場は存在しておらず、売却の際は正しい計算手法を用いて売却額を計算する必要があります。
売却額の計算手法の中には、類似企業との比較をもって売却額を計算するものもあります。これは相場というイメージに最も近いかもしれません。売却額の計算手法の詳細は、次章にて解説いたします。
有限会社を売却する際の計算手法

この章では、有限会社を売却する際の計算手法について解説します。
個人でも計算できる?
結論からいうと、個人でも売却額の計算をすることは可能です。有限会社を売却する際の売却額計算手法には、主に以下の3つが挙げられます。
【売却額の計算手法】
- 純資産価額方式
- 類似業種比準方式
- 配当還元方式
純資産価額方式
純資産価額を発行済株式数で割って売却額を算出する計算手法です。簡単にいうと「会社を解散させた場合に株主に配当されることになる金額」を評価額とするものです。
まず、相続税評価額による資産と負債の差額(純資産)を算出します。これは真っ先に負債を清算するという考え方であるためです。
続いて、相続税評価額と帳簿価額それぞれの純資産の差額に法人税を乗じ、その額を差し引きます。この段階ではじめて純粋な純資産が算出されます。最後に、発行済株式数で割って1株あたりの評価額を計算します。
類似業種比準方式
業種・規模が類似している企業と比べて売却額を計算する手法です。他の計算手法と比較すると株式の評価額が低くなる特徴があります。
しかし、売却額が低くなることは相続税を抑えることにも繋がります。税制面を重視して、あえて類似業種比準方式を利用することもあります。
配当還元方式
株主への分配金に着目した売却額の計算手法です。対象が配当金と資本金のみになるため、意図的に売却額を抑えることができます。異例の評価方法ではありますが、相続税対策などに利用されることがあります。
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企業価値評価はプロに任せるのがおすすめ
前述した計算手法を使えば、個人でも有限会社の売却額を計算することは可能です。しかし、会社の状況やM&Aに求める条件などによって、最適となる売却額計算手法は変化します。
さらに、企業価値評価には、単純な数値だけでは測れない無形資産の存在もあります。例えば、特許を始めとした知的財産権・保有する技術・従業員などがあり、全て無形資産とされ重要度によって価値も大きく変わります。
これらの価値を正しく算出するには、企業評価のプロの力を借りなければ困難です。売却額の計算手法を把握しておくことも大切ですが、実際の計算はプロに任せることをおすすめします。
有限会社のM&Aを検討する際におすすめの相談先

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まとめ

有限会社のM&A・売却・買収について詳しくみてきましたが、いずれの手法を用いた時もその特徴からM&A・売却・買収に必要な手続きが多くなる傾向にあります。
定款の内容によってはM&A・売却・買収できないこともあるため、売却側・買収側双方が留意しなければなりません。
【有限会社のM&A・売却方法】
- 株式譲渡にてM&A
- 事業譲渡にてM&A
- 会社合併にてM&A
- 吸収合併にてM&A
【有限会社をM&A・売却する理由】
- 後継者がいないため
- 現在、休業・休眠している
- 慢性的な人材不足
【有限会社をM&A・売却する際に注意するポイント】
- 特例有限会社の上場について
- 株主資格を限定してる有限会社について
- 従業員の待遇
- 経営方針の変更
【有限会社を買収する際のポイント】
- 有限会社の買収はメリットが多い
- 特例有限会社の扱いは難しい
- 株式を利用した事業拡大が難しい
- 様々なポイントで定款の内容が関わる
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