
デューデリジェンスはM&Aで必ず行われるプロセスですが、そのなかでも財務DD(デューデリジェンス)は簿外債務や隠匿口座をみつける目的もあり、M&Aの成功を大きく左右します。
本記事では、財務DD(デューデリジェンス)の目的や流れを解説するとともに、ひな形やチェックリストも紹介します。
目次
財務デューデリジェンスとは

財務DD(デューデリジェンス)とは、会社の財務状況を調査することであり、会社自身が調査する内部調査ではなく、別な会社が公認会計士や税理士を雇い外部調査を指します。
財務DD(デューデリジェンス)以外のデューデリジェンスには、ビジネスデューデリジェンス・法務デューデリジェンスなどがあります。
M&Aでは会社を買収しようとする買い手が、買収対象である売り手企業に対してデューデリジェンスを行います。
財務DD(デューデリジェンス)では、現在または過去の財務状態の把握、将来の利益やキャッシュフローの予測などを行います。
財務DD(デューデリジェンス)の目的
財務DD(デューデリジェンス)の主な目的には、以下の3つがあります。
【財務DD(デューデリジェンス)の目的】
1.買収価格決定のための情報収集
2.財務リスクの把握
3.株主などへの説明責任
1.買収価格決定のための情報収集
M&Aでは買収価格をいかに決めるかが難しい問題であり、高すぎる価格で買収したためにM&Aが失敗する例も多くみられます。
買収価格の決定のために企業価値評価や価格交渉を行いますが、これらはデューデリジェンス実施前になされるため、まだ最終的な決定とはなりません。
企業価値評価や交渉で一旦買収価格を決めた後に財務DD(デューデリジェンス)を行い、その結果をもとに価格が妥当かあらためて検討します。
財務DD(デューデリジェンス)によって簿外債務などの問題がみつかった場合は、その情報をもとに買収価格を変更します。
2.財務リスクの把握
M&Aでは売り手企業の財務諸表が開示されますが、財務諸表からはわからないリスクもあるので、M&A締結前に財務DD(デューデリジェンス)で洗い出しておく必要があります。
財務諸表に表れない財務リスクとは、債務者の倒産で債権が回収できなくなる可能性や、価格変動のある資産の価格変動リスクなどです。また、流動性の低い金融資産を換金できないリスクなども財務リスクに含まれます。
3.株主などへの説明責任
M&Aでは、株主・取引先・債権者といった関係者へ取引内容を説明するとともに、不利益がでないように配慮しなければなりません。
財務DD(デューデリジェンス)で説明責任を果たさなければ、株主や関係者にM&Aを反対される恐れもあります。
M&Aにおける説明責任は、民法で規定される善管注意義務にあたるとされており、もし財務DD(デューデリジェンス)を怠って株主に不利益がでた場合、損害賠償の対象となる可能性もあるので注意が必要です。
財務DD(デューデリジェンス)の必要性
M&Aでは仲介会社が売買相手をマッチングするので、相手企業の内情を知らない状態から交渉を始めることになります。
よって、相手企業のことをできるだけ正確に把握し、本当にM&Aを行ってよい相手か判断する必要があります。
相手企業についてよく調べないまま、簿外債務や含み損を抱える会社を買収してしまうと、買収した会社はリスクを抱えることになり、買収金額に見合うメリットが得られなくなります。
このようなリスクを回避して適正な買収価格を求めるために、M&A締結前に財務DD(デューデリジェンス)を行う必要があります。
財務DD(デューデリジェンス)の手続き・流れ
財務DD(デューデリジェンス)の手続き・流れは以下のように進んでいきます。
【財務DD(デューデリジェンス)の手続き・流れ】
- 財務DD(デューデリジェンス)の依頼先の選定
- 調査範囲を決める
- 必要な資料の準備
- 財務諸表の精査
- 実地調査
- 報告書の作成
1.財務DD(デューデリジェンス)の依頼先の選定
まずは、財務DD(デューデリジェンス)の依頼先の選定を行います。依頼先の候補としては、公認会計士・税理士・M&A仲介会社などがあります。
専門家によって財務DD(デューデリジェンス)のスキルにばらつきがあるので、財務DD(デューデリジェンス)に強い専門家を選ぶ必要があります。
また、普段から付き合いのある顧問税理士・会計士であれば財務DD(デューデリジェンス)を依頼しやすいメリットがありますが、客観的な視点が失われる可能性もあるので注意が必要です。
2.調査範囲を決める
財務DD(デューデリジェンス)の依頼先を決めたら、その依頼先と相談して調査範囲を決めます。
財務DD(デューデリジェンス)は短期間で完了する必要があり、財務のどの部分を調べるべきかは個々のM&Aの内容によって変わります。
そのため、財務DD(デューデリジェンス)は調査すべき内容に優先順位をつけ、範囲を絞ったうえで実行します。
3.必要な資料の準備
財務DD(デューデリジェンス)を行うためには、財務諸表に加えて、税務申告書や勘定内訳書などさまざまな資料が必要になります。
中小企業ではこれらの資料の保管がおろそかになっていることもあるので、事前に準備を整えておく必要があります。
4.財務諸表の精査
調査範囲をどのように決めるにしろ、財務DD(デューデリジェンス)において財務諸表の精査は必ず行われます。財務諸表を精査して、正常収益力や時価純資産などを評価します。
5.実地調査
財務DD(デューデリジェンス)では、調査対象の会社に会計士や税理士が赴いて、資料の精査やヒアリングなどの実地調査を行います。
財務DD(デューデリジェンス)の調査範囲によっては、取引先や競合他社へのヒアリングが行われることもあります。
6.報告書の作成
資料の精査や実地調査が終わったら、調査内容を報告書にまとめて財務DD(デューデリジェンス)が完了します。
対象企業が公開会社の場合
公開会社とは株式を自由に売買できる会社を指し、上場企業だけでなく、非上場企業でも定款に譲渡制限が定められていなければ公開会社になります。
公開会社が財務DD(デューデリジェンス)を行う際は、株主に情報が漏れないように注意する必要があります。
もし財務DD(デューデリジェンス)の情報が株主に漏れると、売りが殺到して株価が短期間に大きく下落する危険性があります。
M&Aのデューデリジェンス(DD)を解説【目的/種類/手続き/注意点】
財務DD(デューデリジェンス)のひな形・チェックリスト【無料】

この章では、財務DD(デューデリジェンス)を行う際にチェックしておくポイントと、財務DD(デューデリジェンス)の報告書に盛り込む場合のひな形を紹介します。
財務DD(デューデリジェンス)のチェックリスト
財務DD(デューデリジェンス)を行うにあたって、現金・預金・支払手形・買掛金の各勘定科目についてチェックすべきリストをみてきましょう。
1.現金
財務DD(デューデリジェンス)における、現金に関する主なチェック項目には以下があり、実査は必ず会社の担当者立ち合いのもとで行われます。
【財務DD(デューデリジェンス)の現金チェックリスト】
- 調査基準日の金種表を作成して、実際の残高と一致しているかを確認する
- 調査実施日の現金を実際に数えて(現金実査)、現金出納帳と一致しているか確認する
- 調査基準日から調査実施日の間の入出金や取引を把握する
- 担当者から現金の管理状況について聞き取り
2.預金
財務DD(デューデリジェンス)の預金については、帳簿上の残高確認、隠匿口座や休眠口座のチェックを行われます。
【財務DD(デューデリジェンス)の預金チェックリスト】
- 調査基準日の残高証明書と、帳簿上の残高が合っているか
- 隠匿口座(帳簿にない口座)がないか
- 調査基準日から調査実施日の間に問題のある取引がないか
- 総勘定元帳の通査
3.支払手形
財務DD(デューデリジェンス)の支払手形に関しては、支払手形台帳や手形の耳の現物を使って、計上漏れがないか確認します。
【財務DD(デューデリジェンス)の支払手形チェックリスト】
- 支払手形台帳の残高が、調査基準日の実際の残高と一致しているか確認する
- 手形の控え(耳)の現物と、支払手形台帳の記録が一致しているか確認する
- 担当者から手形帳の管理状況について聞き取り
4.買掛金
財務DD(デューデリジェンス)の買掛金に関しては、計上漏れがないか、残高が一致するかなどを確認します。
【財務DD(デューデリジェンス)の買掛金チェックリスト】
- 総勘定元帳の仕入計上と、実際の請求書の金額が一致しているか確認する
- 調査基準日以降の取引のなかに、基準日までに仕入れたものがないか確認する
- 仕入先から残高確認書を入手し、調査基準日の買掛残高と一致するか確認する
財務DD(デューデリジェンス)のひな形
財務DD(デューデリジェンス)報告書の書式は作成する専門家によっても違います。ここでは、ひな形書式の一例を紹介します。
【財務DD(デューデリジェンス)のひな形】
- 会社概要と組織図
- 株主構成
- 経理フロー
- 3期比較貸借対照表
- 時価評価した貸借対照表
- 再評価した資産・負債の詳細
- 直近3期分の損益計算書等の推移
- 社員名簿と報酬体系
- 内容のまとめ
- 経営者へのヒアリングの抜粋
1.会社概要と組織図
財務DD(デューデリジェンス)報告書では、はじめに商号や所在地といった会社の概要、役員や各部署の関係を示した組織図を記載します。
会社概要で記載すべき主な内容には、商号・所在地・設立年月日・事業内容・取扱品目・許認可・代表者氏名・従業員数・主要取引先・直近の調査実績・役員構成の変遷などがあります。
2.株主構成
株主構成について、株主の住所や株主ごとの保有株式数・議決権数などを記載します。
3.経理フロー
経理がどのようなプロセスで処理されているかを、フローチャートなどを使って簡潔に記載します。取引先・現場担当者・経理の3者について、経理フローにおける関係性が分かるようにします。
4.3期比較貸借対照表
3期分を並列表記した貸借対照表を作成します。
5.時価評価した貸借対照表
直近期の貸借対照表を時価評価で作成します。各勘定科目について、簿価残高・評価差額・評価残高を記入します。
6.再評価した資産・負債の詳細
再評価した資産と負債について、調査基準日の簿価・修正額・修正後残高を記入します。
再評価の対象となる資産は、現金・受取手形・売掛金・棚卸資産・有形固定資産・会員権・保険積立金などです。
再評価の対象となる負債は、仕入債務・支払債務・借入債務・役員退職債務・貸倒引当金・リース債務などです。
7.直近3期分の損益計算書等の推移
損益計算書・販売費・一般管理費・製造原価について、直近3期分の推移と3期平均修正額を記載します。
8.社員名簿と報酬体系
社員名簿の一覧を作り、各社員の氏名・年齢・勤続年数・基本給・健康保険・厚生年金・雇用保険・所得税・住民税・総支給額を記載します。
9.内容のまとめ
財務DD(デューデリジェンス)の内容全体について、ポイントとなる部分を簡潔にまとめます。
10.経営者へのヒアリングの抜粋
経営者へ行ったヒアリングの内容について、ポイントを抜粋して記載します。
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M&Aは財務DD(デューデリジェンス)を始め専門的な手続きが必要となるため、M&A仲介会社のサポートが不可欠です。
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まとめ

財務DD(デューデリジェンス)は会計士や税理士などの専門家が行うものですが、M&Aを行う経営者も概要を知っておくことが大切です。
財務DD(デューデリジェンス)はM&Aの成功を大きく左右するものなので、専門家任せにせず目的や流れ、チェックポイントや報告書のひな形などについて理解しておくようにしましょう。
【財務DD(デューデリジェンス)の目的】
1.買収価格決定のための情報収集
2.財務リスクの把握
3.株主などへの説明責任
【財務DD(デューデリジェンス)の手続き・流れ】
- 財務DD(デューデリジェンス)の依頼先の選定
- 調査範囲を決める
- 必要な資料の準備
- 財務諸表の精査
- 実地調査
- 報告書の作成
現金 |
1.調査基準日の金種表を作成して、実際の残高と一致しているか確認する 2.調査実施日の現金を実際に数えて(現金実査)、現金出納帳と一致しているか確認する 3.調査基準日から調査実施日の間のお金の入出金や取引を把握する 4.担当者から現金の管理状況について聞く |
預金 |
1.調査基準日の残高証明書と、帳簿上の残高が合っているか確認する 2.隠匿口座(帳簿にない口座)がないか確認する 3.調査基準日から調査実施日の間に、問題のある取引がないか確認する 4.総勘定元帳の通査 |
支払手形 |
1.支払手形台帳の残高が、調査基準日の実際の残高と一致しているか確認する 2.手形の控え(耳)の現物と、支払手形台帳の記録が一致しているか確認する 3.担当者から手形帳の管理状況について聞く |
買掛金 |
1.総勘定元帳の仕入計上と、実際の請求書の金額が一致しているか確認する 2.調査基準日以降の取引の中に、基準日までに仕入れたものがないか確認する 3.担当者から手形帳の管理状況について聞く |
【財務DD(デューデリジェンス)のひな形】
- 会社概要と組織図
- 株主構成
- 経理フロー
- 3期比較貸借対照表
- 時価評価した貸借対照表
- 再評価した資産・負債の詳細
- 直近3期分の損益計算書等の推移
- 社員名簿と報酬体系
- 内容のまとめ
- 経営者へのヒアリングの抜粋