
経営者が会社や個人事業を手放す手段として、廃業(清算)やM&Aといった手段がありますが、両者のメリット・デメリットを理解したうえで、適切な手法を選ぶ必要があります。本記事では、廃業(清算)とM&Aに加えて、事業承継・事業譲渡を比較します。
目次
廃業(清算)とM&A

会社や個人事業を消滅させる廃業(清算)と存続させるM&Aは、真逆の方向性を持つ手続きだといえます。廃業(清算)とM&Aにはそれぞれメリットとデメリットがあり、どちらを選択すべきかは個々の事例によって変わってきます。
よって、会社経営者や個人事業主としては、どちらを選択すべきか正しく判断できるように、知識を得ておくことが大切です。この章では、廃業(清算)とM&Aとは何かについて、基本的な事項を解説します。
廃業(清算)とは
廃業とは、会社や個人事業を消滅させて営業を終えることで、いわゆる会社を「たたむ」ことです。廃業は倒産と混同されがちですが、廃業は黒字・赤字に関わらず、経営者の自主的な判断でいつでも行うことができます。
清算とは、会社の資産を全て現金化してそのお金で負債を返済することです。清算という言葉は単にお金の貸し借りを解消するという意味でも使われますが、会社の清算という場合は、会社法で定められた清算手続きを指すのが一般的です。
【関連】廃業とは?手続きや実行する前に行うべき3ステップまで徹底解説!
M&Aとは
M&Aとは会社や個人事業を売却・買収したり、合併や分割などの組織再編を行うことで、英語で合併を「Merger」、買収を「Acquisition」というので、頭文字をとってM&Aと呼ばれています。
M&Aの手法にはさまざまなものがあり、下図のように分類することができます。そのなかでも株式を売却して経営権を譲渡する株式譲渡は、多くのM&Aで用いられる手法です。
株式譲渡以外では、事業譲渡もよく使われる手法です。事業譲渡は株式を譲渡せず、店舗や工場などの事業資産を直接売却します。個人事業は株式を発行しないので、M&Aを行う時は必然的に事業譲渡を使うことになります。
それ以外の手法は、主に大企業の組織再編で使われるものであり、株式譲渡・事業譲渡に比べて使われる頻度は低いです。

廃業(清算)とM&Aを比較

廃業(清算)とM&Aは、会社を消滅させる手続きと存続させる手続きなので、全く違うメリット・デメリットを持っています。
この章では、廃業(清算)とM&Aのメリット・デメリットを解説するとともに、その後の手取り額・従業員の雇用・取引先との関係を比較します。
廃業(清算)のメリット・デメリット
この節では、廃業(清算)のメリット・デメリットをみていきます。
廃業(清算)のメリット
廃業(清算)は会社や個人事業を消滅させるので、プレッシャーや責任から解放されるメリットがあります。
資産超過で廃業(清算)する場合は、倒産よりも債権者や取引先への影響が少ないのも利点です。よって、将来的に倒産しそうな会社を早めに廃業(清算)するのは、非常によい選択肢となる可能性があります。
また、倒産と違って、世間的に会社がつぶれたというイメージを持たれないのもメリットのひとつといえるでしょう。
廃業(清算)のデメリット
廃業(清算)すると会社や個人事業が消滅するので、雇っていた従業員は職を失うことになります。また、取引先との関係もなくなるので、取引先にとっても売上が落ちてしまうデメリットが生じます。
さらに、その会社を懇意にしていた顧客や地域社会にとっては、提供していたサービスを失うのもデメリットになります。特に地方の医院や薬局などは、廃業(清算)すると地域社会に大きな影響を与えてしまうこともあります。
また、廃業(清算)では、資産を売却する時に売却額を低く見積もられる傾向があるのもデメリットであり、これはM&Aと違ってのれん(営業権)が加味されないことなどが原因です。
【関連】廃業とは?事前に知っておくべき意味やメリット、方法、費用を徹底解説
M&Aのメリット・デメリット
続いては、M&Aのメリットとデメリットを解説します。
M&Aのメリット
廃業(清算)では従業員が雇用を失いますが、M&Aであれば会社を存続させ雇用を維持することができます。また、会社が今まで培ってきた技術やノウハウを失わずに済むのもメリットです。
創業者利益を獲得できるのも、M&Aの大きなメリットです。廃業(清算)でも資産超過の場合は利益が得られますが、M&Aのほうが得られる利益が大きくなる傾向にあります。
また、廃業(清算)では債務超過の場合は利益を得ることはできませんが、M&Aであれば債務超過の会社を売却して利益を得ることも可能です。
大手へ売却することによる経営基盤の獲得や、不採算事業をM&Aで切り離す選択と集中など、事業発展のための経営戦略として積極的に活用できるのも、廃業(清算)にはないメリットです。
M&Aのデメリット
M&Aはよい相手と納得いく条件で成約できればとよいですが、買い手・売り手双方に求める条件があるので、必ずしもうまくいくとは限らない点がデメリットです。
多くの時間と労力をかけて結局成約できないケースや、あせって納得いかない条件で成約して後悔するケースもあります。
また、M&Aというのは会社の身売りというイメージが根強いため、従業員から反発を受けたり、モチベーションが低下する可能性もあります。経営者は、従業員に対してM&Aの正しい知識と目的を説明して理解を得ることが重要です。
【関連】M&Aで会社売買する方法とは?メリット、M&A案件の探し方も解説
その後の手取り
廃業(清算)とM&Aでは、経営者や個人事業主に手に入る、その後の手取り額に違いがでてきます。手元にできるだけお金を残したい場合は、手取り額を基準に廃業(清算)するかM&Aを行うか決めるのもよいでしょう。
以下では、廃業(清算)とM&A、それぞれの場合の手取り額がどうなるかについて解説します。
廃業(清算)のその後の手取り
会社の廃業(清算)の場合、清算によって負債を全て弁済可能かどうかで手取り額が変わってきます。
全額弁済可能な場合は、会社法で定められた「通常清算」という手続きに従います。通常清算では負債を全て弁済した後、残った財産を株主に分配します。経営者はほとんどの場合において株主であるため、保有している株式の割合に応じて手取りを得ることができます。
債務超過の場合は、「特別清算」または「破産」手続きに従います。特別清算または破産で清算する場合は、廃業(清算)後に経営者が手取りを得ることはできません。
M&Aのその後の手取り
M&Aの場合は、どのM&A手法を用いるかによって手取り額が変わってきます。例えば、株式譲渡でM&Aを行った場合は、売却益は株主のものとなります。よって、経営者が保有株式を売却すれば、経営者の手取りとなります。
事業譲渡の場合は、売却益は株主ではなく売却した会社のものとなります。経営者は直接的に手取りを得ることはできませんが、売却益から退職金を支払うなどして経営者個人に手取りをもたらすことは可能です。
従業員の雇用
会社や個人事業を廃業(清算)したりM&Aを行う時に、経営者が気をつけておかなければならないのは従業員の処遇です。
従業員にとって雇用を失うのは生活に大きな変化をもたらすため、経営者は従業員が生活に困らないように配慮しなければなりません。ここでは、廃業(清算)とM&Aそれぞれについて、従業員の雇用がどうなるかを解説します。
廃業(清算)の場合
廃業(清算)の場合、その会社や個人事業で働いていた従業員は解雇されます。よって廃業(清算)を選ぶ場合は、従業員の再就職をできるだけサポートするとともに、事業終了日に向けた給与と手当の支払いを明確にしておく必要があります。
再就職は経営者が直接仕事を紹介できるならしてもいいですし、できない場合は有給などを活用して従業員が十分な就職活動の時間をとれるように配慮します。
事業終了日に向けた給与・手当の支払いで注意したいのは、未払い賃金の支払い、有給の消化、解雇予告手当などです。未払い賃金や未消化の有給休暇がある場合は、それらを全て支払ったうえで廃業(清算)しなければなりません。
解雇予告手当とは、従業員に解雇を告げるのが遅かった場合(解雇日の30日前より後)に、支払わなくてはならない手当のことです。
M&Aの場合
M&Aの場合は会社が存続するので、基本的に従業員の雇用は守られます。ただし、M&Aで会社を売却するとその後は新しい経営者が指揮をとるので、方針によっては雇用条件が悪くなったり、場合によっては解雇される可能性もあります。
このように、M&Aでは会社は存続するものの、雇用が保証されるとは限らないのは注意したい点です。M&Aで従業員の雇用を確実に守りたい場合は、買い手との交渉時にその旨をきちんと伝えておくことが重要です。
取引先との関係
廃業(清算)やM&Aを行うにあたっては、従業員だけでなく取引先との関係にも気を使わなくてはなりません。この節では、廃業(清算)とM&Aそれぞれの場合について、取引先との関係がどうなるかを解説します。
廃業(清算)の場合
廃業(清算)すると会社や個人事業が消滅するので、必然的に取引先との関係もなくなります。
自社と取引をしている取引先にとって、突然廃業(清算)されるのは非常に困ることです。廃業(清算)するにあたっては、取引先との関係をスムーズに終わらせるよう配慮しなければなりません。
直接出向いて廃業(清算)の旨を告げられる取引先には直接報告するとともに、各取引先に挨拶状として廃業の旨を伝えます。さらに、廃業に向けて取引量を少しずつ減らすなどして、取引先が困らないようにするとよいでしょう。
M&Aの場合
M&Aの場合は会社や個人事業が存続するので、取引先とも引き続き関係を続けることができます。
ただし、M&Aを行うと新しい経営者や親会社のもとで会社が運営されていくので、方針によっては取引先との関係性が変わっていく可能性もあります。関係性は悪化する場合もありますが、逆により強固な関係を築ける場合もあります。
また、主に中小企業でみられるケースですが、経営者の人柄や手腕に惹かれて取引をしていた取引先が、M&Aによる経営者の変更とともに離れてしまうこともあります。
経営者の個人的な手腕が大きい中小企業では、取引先との関係の維持に注意する必要があります。
事業承継や事業譲渡した場合

M&A以外で会社を存続させる手法としては、経営者の親族や社員などを後継者に据える事業承継が考えられます。
事業承継目的でM&Aを行うこともできるので、事業承継を考える時は、親族への事業承継・社員への事業承継・M&Aによる事業承継、3つのパターンを考慮する必要があります。
M&Aで最もよく使われる手法は株式譲渡ですが、事業譲渡はその次によく使われる手法です。特に個人事業主は、株式譲渡よりも事業譲渡について把握しておくことが重要になります。
この章では、事業承継と事業譲渡について、メリット・デメリットやその後の手取りなどを解説していきます。
事業承継した場合
まずは、事業承継した場合のメリット・デメリットや手取り額などを解説します。
メリット・デメリット
事業承継のメリットは、廃業(清算)と違って会社を存続できることです。また、親族や社員への事業承継の場合、実際に事業承継を行う何年も前から、後継者に経営者としての教育をほどこすことができます。
事業承継のデメリットは、親族や社員への事業承継の場合、経営者候補となる人物がみつからないことがある点や、株式など資産の贈与・相続に関して、親族とトラブルになることがある点が挙げられます。
社員への事業承継の場合は、社員が株式を買い取る資金をどのように工面するかが大きな問題となります。
その後の手取り
事業承継のその後の手取り額は、親族への事業承継・社員への事業承継・M&Aによる事業承継によって変わってきます。
まず、親族への事業承継は贈与か相続で行われるので、経営者の手取り額というものはありません。
社員への事業承継では、経営の実権だけを承継する場合と、株式を社員に買い取ってもらう場合があります。株式を買い取ってもらう場合は、その売却益が経営者の手取り額となります。
経営のみ承継する場合は、旧経営者が引き続き株式を保有するので、手取り額はありません。M&Aによる事業承継の場合は、売却した株式や事業資産の額が手取りとなります。
従業員の雇用
事業承継は廃業(清算)と違って会社が存続するので、従業員の雇用は基本的に維持されます。ただし、新しい経営者の方針によっては、労働条件が変わったり解雇される可能性もあります。
取引先との関係
事業承継では会社が存続するので、取引先との関係も基本的に維持されます。ただし、こちらも従業員の雇用と同様、新しい経営者の方針によっては、取引先との関係が変化する場合もあります。
【関連】事業承継とは?基礎知識から成功のためのポイントまで徹底解説!
事業譲渡した場合
事業譲渡はM&A手法の一つなので、主なM&A手法である株式譲渡との違いを理解しておくことが大切です。この節では、事業譲渡のメリット・デメリットや、その後の手取りなどをみていきます。
メリット・デメリット
株式譲渡と比較した場合、事業譲渡の一番のメリットは、事業の一部分だけを譲渡できることです。
株式譲渡は経営権の譲渡なので、会社を包括的に譲渡することになります。一方で事業譲渡は事業資産そのものの売買なので、一部の事業だけを売却して、会社の経営権は保持することができます。そして、個人事業の譲渡ができるのも、株式譲渡にはないメリットです。
事業譲渡のデメリットとしては、手続きの煩雑さが挙げられます。事業資産を個々に売却しなければならないので、株式譲渡と違って手間がかかります。
その後の手取り
事業譲渡のその後の手取りは、会社か個人事業かによって変わってきます。会社の事業譲渡の場合は譲渡益が会社に入るので、経営者は直接的には手取りを得ることはできません。一方、個人事業の場合は売却益は個人事業主の手取りとなります。
会社の事業譲渡で経営者が手取りを得たい場合は、会社の売却益を退職金で経営者に支給するなどの対応が必要になります。
従業員の雇用
事業譲渡すると事業資産の所有者が変わるので、従業員の雇用を維持するには一旦もとの会社を退職して、譲渡先の企業が再雇用する必要があります。
一方で、株式譲渡の場合は株主が変わるだけなので、従業員を再雇用する必要はありません。従業員の雇用に関する手続きが複雑になるのは、事業譲渡の注意点だといえます。
取引先との関係
事業譲渡すると事業資産の所有者が変わりますが、取引先との関係は新しい所有者のもとで維持することができます。
ただし、譲渡した会社はその事業を売却しているので、当然ながら関連する取引先との関係は絶たれることになります。
【関連】事業譲渡とは?仕組みや手続きを理解し、効果的に事業を売却しよう!
廃業(清算)、M&A、事業承継、事業譲渡、それぞれの比較まとめ

廃業(清算)、M&A、事業承継、事業譲渡、それぞれのメリット・デメリットやその後の手取りなどを比較すると、下表のようになります。
廃業(清算) | M&A | 事業承継 | 事業譲渡 | |
メリット |
・プレッシャーから解放される ・債権者や取引先への迷惑が少ない ・会社がつぶれたというイメージがない |
・雇用を維持できる ・技術やノウハウを失わない ・創業者利益が得られる ・事業の発展に活用できる |
・会社を存続できる ・早い段階から後継者教育をほどこせる |
・事業の一部だけを譲渡できる ・会社の経営権を保持できる ・個人事業の譲渡ができる |
デメリット |
・従業員が職を失う ・取引先との関係がなくなる ・顧客や地域社会への影響 ・資産を安く見積もられる |
・納得いく条件で成約できるとは限らない ・従業員の反発やモチベーション低下 |
・適切な後継者がいるとは限らない ・資産の贈与・相続でトラブルになることがある ・株式の取得費用の捻出 |
・手続きが複雑 ・従業員の再雇用が必要 |
その後の手取り |
・資産超過なら株主へ資産を分配 ・債務超過なら手取り額はゼロ |
・株式譲渡なら売却益が株主の手取りになる ・事業譲渡なら譲渡した会社が手取りを得る |
・贈与や相続なら手取りはゼロ ・株式・事業資産を売却した場合は手取りを得られる |
・譲渡した会社が手取りを得る |
従業員の雇用 | ・解雇 |
・基本的には雇用を維持できる ・ただし新経営者の方針によっては解雇される恐れもある |
・基本的には雇用を維持できる ・ただし新経営者の方針によっては解雇される恐れもある |
・雇用契約を結びなおすことで雇用の維持が可能 |
取引先との関係 | ・取引先との関係はなくなる |
・基本的には維持される |
・基本的には維持される |
・基本的には維持される ・ただし譲渡した会社との関係性は絶たれる |
M&A・事業譲渡・事業承継の相談先

廃業(清算)・M&A・事業承継・事業譲渡のうちどれを選択するかは重要な問題ですが、経営者の方が一人で判断するのは難しいこともあります。
M&A総合研究所では、様々な業種で50件以上のM&A実績があるアドバイザーが在籍しており、廃業(清算)・M&Aなどからどの手法を選択すべきか親身になってアドバイスさせていただきます。
料金体系は相談料・中間報酬・月額報酬無料の完全成功報酬制で、成約した場合のみ手数料をいただくシステムとなっています。相談するたびに料金をとられる心配がなく、納得いくまで相談することができます。
無料相談は随時受け付けていますので、廃業(清算)やM&Aをお考えの経営者様は、お電話かメールで気軽にお問い合わせください。
まとめ

廃業(清算)・M&A・事業承継・事業譲渡はそれぞれメリットとデメリットがあるので、それらをしっかり把握したうえで、最適な手段を選ぶことが大切です。
最もよい形で会社の売却ができるようにしておくことが、会社経営者や個人事業主にとって重要になります。
【廃業(清算)のメリット・デメリット】
メリット | デメリット |
|
|
【M&Aのメリット・デメリット】
メリット | デメリット |
|
|
【事業承継のメリット・デメリット】
メリット | デメリット |
|
|
【事業譲渡のメリット・デメリット】
メリット | デメリット |
|
|
【廃業(清算)のその後の手取り・取引先との関係・従業員の雇用】
その後の手取り | 取引先との関係 | 従業員の雇用 |
|
|
|
【M&Aのその後の手取り・取引先との関係・従業員の雇用】
その後の手取り | 取引先との関係 | 従業員の雇用 |
|
|
|
【事業承継のその後の手取り・取引先との関係・従業員の雇用】
その後の手取り | 取引先との関係 | 従業員の雇用 |
|
|
|
【事業譲渡のその後の手取り・取引先との関係・従業員の雇用】
その後の手取り | 取引先との関係 | 従業員の雇用 |
|
|
|