
会社や個人事業を廃業する際は、働いていた従業員の処遇に十分配慮する必要があります。
本記事では、廃業すると従業員がどうなるのか、会社側はどういった保障をすればいいのかに加え、M&Aで廃業を回避するメリットなどを解説します。
目次
廃業すると従業員はどうなる?

経営者が高齢になった、経営が立ち行かなくなったなどの理由で、会社や個人事業を廃業するケースは少なくありません。
会社や個人事業の廃業には手続きや注意すべき点が多くありますが、最も気を配りたいのは従業員の処遇です。
従業員にとって、自分が働いている会社や店舗が廃業するのは非常にショックな出来事であり、今後の給料や再就職はどうなるかなどの不安もつきまといます。
会社経営者や個人事業主としては、従業員の不安をケアしつつ、円滑に廃業できるように進めていかなくてはなりません。
この章では、廃業することによって従業員にどのような変化が起こるのか、主なものを4つ解説します。
【廃業すると従業員はどうなる?】
- 給料がもらえなくなる
- 失業保険を受給する
- 社会保険の切り替え
- 厚生年金から国民年金へ切り替わる
1.給料がもらえなくなる
廃業すると働いていた従業員は解雇されることになるため、当然ながら給料はもらえなくなります。
廃業にともなう給与関連で注意しておきたいのが、解雇予告手当を支払う必要があるかどうかです。解雇予告は30日前までに行う必要があり、30日前より後に解雇予告を行った場合は、解雇予告手当を支払う必要があります。
従業員の立場であれば、もし30日前までに解雇予告されなかったのに手当がない場合、解雇予告手当の支払いを経営者に請求することができます。
2.失業保険を受給する
廃業により働いていた職場を解雇されると、元従業員は失業保険を受給することができます。失業保険をいつからもらえるかは、自己都合で退職したか、会社都合で退職したかによって異なります。
廃業による退職は会社都合なので、自己都合の場合に課される3か月の給付制限期間はなく、1週間の待機期間後すぐに支給してもらうことができます。
従業員を雇う時、雇い主には雇用保険に入る義務がありますが、零細企業や小規模な個人事業主、またはいわゆるブラック企業などでは、加入していないケースもあるので注意が必要です。
自分が働いている職場が雇用保険に入っているかどうかは、給与から雇用保険が天引きされているか確認したり、ハローワークに問い合わせることで知ることができます。
3.社会保険の切り替え
廃業した職場で社会保険に入っていた場合は、退職にともない国民健康保険に切り替える必要があります。しかし、退職後すぐに再就職する場合は切り替える必要がないこともあります。
また、最大2年間までなら、廃業による退職後も社会保険の任意継続を行うことができます。ただしこの場合は、会社が負担してくれていた保険料も自分で支払う必要があるので注意が必要です。
もし共働きで配偶者が社会保険に入っている場合は、一旦扶養家族となって配偶者の社会保険に入ることもできます。
これらのうちどれが最善かは個々のケースにより異なるので、保険料を比べるなどして一番よい方法を選ぶようにしましょう。
4.厚生年金から国民年金へ切り替わる
廃業した職場で厚生年金に加入していた従業員は、退職にともない国民年金に切り替わることになります。
厚生年金は従業員4人以下の個人事業であれば未加入のことがありますが、それ以外の会社や個人事業主は加入しています。
厚生年金から国民年金への切り替えは、退職日から14日以内に市区町村役場の国民年金窓口で手続きします。
会社側が別途企業年金に加入していた場合は、こちらも解約することになります。企業年金は一時金として受け取ることもできますが、いわゆる「持ち運び」によって老後に支給してもらえる場合もあります。
【関連】廃業とは?事前に知っておくべき意味やメリット、方法、費用を徹底解説
廃業した会社の従業員の保障

会社や個人事業を廃業した場合、従業員への適切な保障をしておかなければ、後から訴訟などのトラブルになる可能性もあります。未払い賃金の支払いは当然のことながら、退職金や有給の消化などもきちんと行っておく必要があります。
この章では、廃業した会社の従業員の保障について、手当・退職金・有給消化・未払い賃金の取り扱いを解説します。
【廃業した会社の従業員の保障】
- 従業員への手当
- 従業員の退職金
- 従業員の有給消化
- 従業員への未支払い賃金
従業員への手当は
会社で雇用されている従業員には、残業手当や休日出勤手当など、各種手当が支給されます。また、ある程度規模の大きい会社なら、通勤手当や住宅手当などを支給していることもあるでしょう。
会社の廃業にあたっては、従業員に対する手当てに未払いのものがないか確認するとともに、廃業による退職日までの手当の支払いについて、従業員に周知しておく必要があります。
従業員の退職金は
たとえ廃業する会社であっても、その会社に退職金制度があれば、従業員は退職金を受け取る権利があります。
廃業のような会社都合による退職の場合、退職金を増額すると定めている会社もあるので、従業員の方は自身が務めている会社の規則を一度確認しておくとよいでしょう。
倒産による廃業の場合、一定額までの退職金の支払いは法律で保護されていますが、全額保障されるとは限らないので注意が必要です。
なお、解雇予告手当はあくまで給与の保障であって退職金ではないので、従業員は別途退職金を受け取ることができます。
従業員の有給消化
廃業による退職が決まった時点で有給休暇が残っている従業員は、退職日までにそれを消化することができます。
有給休暇の消化の仕方は自由で、例えば早めに消化してから退職日まで働く方法や、最終出勤日の後に有給をとり、有給を消化し終わった日を退職日とすることも可能です。
どうしても有給を消化しきれない場合、会社によっては有給の買取りに応じてくれることもあります。買取りの対応は会社によってまちまちなので、従業員の方は直属の上司などに相談して、自社の制度を確認しておくとよいでしょう。
従業員への未支払い賃金
従業員への未払い賃金や、いわゆる「サービス残業」による未払いの残業代は、廃業に際して従業員に全額支払わなければなりません。もし未払いのまま廃業した場合、従業員は会社に対して支払いを請求することができます。
ただし、従業員による未払い賃金の請求は、賃金が支払われるはずだった期日から2年以内に行わなければならないと定められており、2年を過ぎてしまうと会社側は支払いを拒否できるため注意が必要です。
従業員のことを考えつつ上手に廃業するコツ

廃業を滞りなく終わらせるには、従業員の処遇について配慮しておくことが重要です。この章では、従業員のことを考えつつ上手に廃業するコツとして、押さえておきたい4点を解説します。
【従業員のことを考えつつ上手に廃業するコツ】
- 廃業する事を事前に伝える
- 賃金の支払い・退職金の用意
- その後の手続きを説明しておく
- 次の就職先を出来る限り紹介する
1.廃業する事を事前に伝える
廃業に際しては、従業員にその事実を直前に伝えるのでは遅すぎます。少なくとも廃業の30日以上前に通知し、従業員に各種手続きや再就職のための期間を与え、混乱が起こらないように配慮しなければなりません。
2.賃金の支払い・退職金の用意
廃業するためには、従業員への退職日までの賃金の支払いや、退職金制度がある場合は退職金の用意をしておかなくてはなりません。
賃金の具体的な支払額は、解雇予告手当を支払うかどうか、未消化の有給休暇がどれくらい残っているかなどによっても変わってきます。支払うべき賃金がいくらあるのか事前に把握しておき、滞りなく賃金を支払えるように準備しておきましょう。
3.その後の手続きを説明しておく
廃業の手続きにはさまざまなものがありますが、従業員が直接関わるものはあまり多くありません。例えば、法人の廃業には株主総会による承認や清算手続きなどがありますが、これらの手続きに従業員が関わることは基本的にありません。
一方で、従業員が直接関わる手続きに関しては、経営者があらかじめ詳しく説明しておく必要があります。
例えば、業務終了日までどのように仕事を進めていくか、在庫をどのように処理していくか、取引先との関係をどのように終えていくかなどは、従業員にきちんと話しておくようにしましょう。
4.次の就職先を出来る限り紹介する
もし余裕があれば、従業員の次の就職先を世話するとよいでしょう。特に、同業種での再就職を希望する従業員に対しては、経営者の人脈で新しい職場を紹介できることもあります。
別な業種へ再就職する従業員に対しては、経営者が就職先を紹介することは難しいこともありますが、就職活動の期間を十分とれるように勤務時間を調整するなどすると、従業員としては非常に助かります。
【関連】廃業手続き完全マニュアル!個人事業主の手続きと廃業リスクも解説
廃業し従業員を解雇するリスク

廃業して従業員を解雇することは、リスクが伴うことも理解しておく必要があります。特にノウハウの流出や未払い賃金に関する訴訟リスクには、注意が必要です。
【廃業し従業員を解雇するリスク】
- ノウハウや技術が流出してしまう可能性
- 賃金の未払いなど訴訟の可能性
1.ノウハウや技術が流出してしまう可能性
廃業して従業員を解雇すると、従業員がその職場で得たノウハウや技術が社外に流出する可能性があります。
特に、従業員が同業種へ転職する場合は、前の職場の技術やノウハウを売りにして就職先を得ようとするケースが想定されます。
ただし、ノウハウの流出は不正競争防止法で一定の規制がなされており、場合によっては刑事罰の対象となることもあります。廃業する会社で働いていた従業員は、技術やノウハウの流出をしないように注意することが大切です。
会社側としては、流出させてはならない情報の範囲を明確にして従業員に周知させたり、場合によっては秘密保持契約を締結するなどして対策しておく必要があります。
2.賃金の未払いなど訴訟の可能性
賃金の未払いは本来あってはならないことですが、残業代などが未払いになっている会社が少なくないという実情もあります。廃業の際に未払いの賃金を放置しておくと、従業員から訴訟を起こされる可能性もあります。
従業員のことを考え廃業を回避する方法とは

廃業はそれ以外に選択肢がなくやむを得ず行うことも多いですが、多かれ少なかれ従業員に迷惑をかけることになります。したがって、もし廃業を回避できる手段があるのであれば、まずは検討してみるべきといえるでしょう。
もし経営困難で廃業の危機にある場合、資金調達でしのぐことができるか考えてみる必要があります。しかし廃業を考えるほど経営が困難な会社は、さらなる資金調達が難しい可能性もあります。
経営者の高齢による廃業の場合は、身近に後を継いでくれる人がいないか探してみるのもよい方法です。従業員に打ち明ければ、意欲のある従業員が後継者に名乗りを上げてくれることも考えられます。
廃業回避とM&Aの関係

身近に後を継いでくれる人材がいない場合、M&Aによって後継者を探すという手段もあります。M&Aは大企業が行うものというイメージがあるかもしれませんが、実際には中小企業や個人事業主のM&Aも活発に行われています。
もしM&Aで会社の後継者や売却先をみつけることができれば、廃業を回避して従業員の雇用を維持することができます。
さらに、顧客や取引先との関係性、会社が培ってきたノウハウなども守れるので、そのメリットは非常に大きいといえます。
M&Aは経営が安定している会社のほうが成功しやすいですが、経営不振で廃業を考えている赤字企業がM&Aを成立させることも可能です。
そのためには、買い手企業が魅力的だと感じるような独自の強みを持っていたり、買い手企業の経営資源で赤字脱却が見込める必要があります。
M&Aの相談は仲介会社がおすすめ

M&Aは経営者が自分で手続きを進めることも可能ですが、専門のM&A仲介会社のサポートを得ることで手続きを円滑に進められ、本業への支障を最小限に抑えることができます。
廃業する前にM&Aの可能性を検討してみたいとお考えの経営者様は、ぜひM&A総合研究所へご相談ください。M&A総合研究所では、さまざまな業種でM&A仲介実績があるアドバイザーが親身になってクロージングまでフルサポートいたします。
当社では着手金・中間金無料の完全成功報酬制を採用しており、成約に至らなければ料金は一切かかりません。相談するたびに相談料をとられ、廃業のための資金を圧迫するといった心配もありません。
無料相談を随時受け付けていますので、廃業の前にM&Aをご検討されたい経営者様は、お電話かメールでお気軽にお問い合わせください。
まとめ

廃業すると従業員に迷惑をかけたり混乱を起こすことがあるので、保障や説明をしっかりして上手に対応する必要があります。
また、M&Aなど廃業以外の選択肢も検討して、従業員の雇用を維持できるか考えることも大切です。
【廃業すると従業員はどうなる?】
- 給料がもらえなくなる
- 失業保険を受給する
- 社会保険の切り替え
- 厚生年金から国民年金へ切り替わる
【廃業した会社の従業員の保障】
- 従業員への手当
- 従業員の退職金
- 従業員の有給消化
- 従業員への未支払い賃金
【従業員のことを考えつつ上手に廃業するコツ】
- 廃業する事を事前に伝える
- 賃金の支払い・退職金の用意
- その後の手続きを説明しておく
- 次の就職先を出来る限り紹介する
【廃業し従業員を解雇するリスク】
- ノウハウや技術が流出してしまう可能性
- 賃金の未払いなど訴訟の可能性