
内部統制とは、企業の経営目標を達成するための体制づくりに用いられる制度をいいます。健全な管理体制を構築することができるため、M&Aの場面においても高い効果を期待することができます。本記事では、内部統制の目的やM&A・事業承継における重要性を解説します。
目次
内部統制とは?

内部統制とは、組織の管理体制を適正に保つために利用される制度です。組織全体で一貫した管理体制を敷くことで、企業目標達成のための業務効率化や、企業の社会的信用を向上させることができます。
上場企業は、J-SOX法により内部統制の導入が義務付けられています。そのため、内部統制の導入企業の多くは上場企業ですが、近年は中小企業でも内部統制の導入を推進する動きが強まっています。
内部統制は多くの企業にとって重要な意味合いを持つ制度です。ここでは、内部統制の定義や目的、M&A・事業承継における体制作りについて解説します。
内部統制の定義
内部統制は、金融庁のJ-SOX法に基づいた制度です。金融庁の定義によると、内部統制の4つの目的が達成されている合理的な保証を得るためのプロセスと、4つの目的達成のための基本となる6つの要素で構成される、となっています。
内部統制の4つの目的や、6つの要素は企業の一般的な業務に紐づいて行われるため、完全に独立した業務ではありません。
企業の事業活動のなかに内部統制を組み込むことで、一般的な業務と同時に継続的に実行していくことになります。
J-SOX法の概要
J-SOX法とは、財務報告にかかわる内部統制報告制度のことです。2006年に金融商品取引法が成立したことで内部統制の仕組みが追加され、2008年4月1日から適用が開始されています。
日本のJ-SOX法の導入のきっかけは、米国で2002年7月に成立したSOX法といわれています。エンロン事件などの企業会計不祥事を防止する目的で制度が導入され、法律を提出した議員ポール・サーベンス上院議員とマイケル・G・オクスリート下院議員の名前からSOX法と命名されました。
日本の内部統制はこのSOX法を参考に導入されたため、J-SOX法として広く認識されることになりました。なお、J-SOX法は俗称であり、正式名称は「内部統制報告制度」です。
内部統制の目的
J-SOX法においては、内部統制の4つの目的と6つの要素が定義されています。4つの目的は内部統制を達成するために導入され、6つの要素は4つの目的を達成するために企業内に構築されるものです。
【内部統制の目的】
- 業務の有効性及び効率性
- 財務報告の信頼性
- 事業活動に関わる法令などの遵守
- 資産の保全
1.業務の有効性及び効率性
企業全体における業務体制の効率化だけでなく、個人レベルの合理化にも期待できます。企業の事業活動に関わる全ての業務について無駄を認識・是正し、適切に評価する体制を作ることで見直しを図る目的です。
2.財務報告の信頼性
上場企業は、すべての投資家に対して投資判断材料を公平に提供するために、適正な財務報告を行う義務があります。
内部統制の導入により財務報告が適正であることを証明できれば、企業全体が健全であることを投資家に対してアピールすることができます。ほかにも、財務報告の信頼性はM&A・事業承継においても重要です。
3.事業活動に関わる法令などの遵守
企業の事業活動は、法令や社内ルールなど、いくつもの規定を遵守したうえで行うことが求められます。これらを遵守することは、社会的信用を高め、企業価値を向上させることにも繋がります。
もし、法令や社内ルールを遵守できていないことが発覚すると、企業の社会的信用は大きく損なわれてしまいます。社会的信用を確保しつつ継続的な事業活動を行うためにも、法令などの遵守は非常に重要なポイントです。
4.資産の保全
資産の取得や使用、処分における手続きに関する確認です。不正な資産運用をしていないことを明確にすることで、健全な事業活動を行うことができます。
内部統制が抱える課題

内部統制は企業の管理体制を構築するうえで重要な役割を持ちますが、適切に導入してM&A・事業承継の場面で効果を得るためには、2つの課題をクリアする必要があります。
【内部統制が抱える課題】
- 仕組み作り
- 財務報告
1.仕組み作り
仕組み作りとは、内部統制を導入するための企業としてのシステム確立を意味します。M&A・事業承継に備えた内部統制は、経営者が率先して導入を進めることが求められますが、役員や従業員に対して具体的にすべきことが伝わらないことが多いです。
役員・従業員が内部統制の重要性を理解しないまま導入を進めても、内部統制を導入したとはいえません。企業としての仕組み作りができていなければ、内部統制の本来の目的は達成できないからです。
経営者の考えを計画書として形して内部統制の全体的なスケジュールを立てるなど、内部統制による健全な管理体制を徐々に浸透させていくことで、企業としての仕組み作りに意識を向けさせていくことができます。
2.財務報告
財務報告の信頼性は、内部統制の目的のなかでも大きな意味合いを持ちます。特にM&A・事業承継の場面においては、買い手に対して提供する財務書類の信頼性がM&A・事業承継の成否に大きく関わります。
M&Aでは、買い手側のデューデリジェンス(M&A対象の価値・リスクの調査)が行われるので、財務書類の不備は許されません。買い手側の信頼を失わないためにも、普段から適正な財務書類の作成を心掛ける必要があります。
財務書類の作成は税務や財務の知識が必要不可欠なので、社内で完璧な書類を作成するのは難しいこともあります。財務書類の作成が不安という場合は、必要に応じて社外の専門家に依頼することも有効な選択肢です。
内部統制の課題をクリアする際に重要なこと

前章では、内部統制の課題として仕組み作りと財務報告を挙げました。どちらも内部統制導入のためにクリアしなければならない課題です。この章では、内部統制の課題をクリアするために重要な2つのポイントについて解説します。
【内部統制の課題クリアする際に重要なこと】
- 内部統制に必要な業務を分担して行う
- 内部統制は計画的に進める
1.内部統制に必要な業務を分担して行う
内部統制導入に向けて社内全体の意識を変えるためには、内部統制導入に必要な業務をできる限り多くの社員の間で共有・分担することが重要です。
内部統制の専用部署を設立することも大切ですが、あくまでも社内全体の取り組みであることを意識づけることが大前提です。
業務分担の代表例としては、経理が挙げられます。経理は少人数で行える業務である反面、事業資金の不正利用などのリスクが付きまといます。経理担当以外の社員とも分担・共有することで透明性を高め、健全な管理体制を構築することができます。
また、経営者が行っている業務の一部を、役員や従業員に分担・共有する方法も有効です。M&A・事業承継では、経営者の依存度が高すぎると企業価値に影響がでる恐れもあるので、普段から社内全体で共有させておくことで引継ぎリスクを引き下げる効果も期待できます。
2.内部統制は計画的に進める
内部統制の導入は数年がかりで行われるため、内部統制計画の作成が必須です。経営者の独断で行うと役員・従業員がついてこれなくなる恐れがあるため、内部統制計画を社内全体で共有して取り組む体制が大切です。
内部統制の導入は、目的ごとに期間を定めて進行する方法が一般的です。1年目は業務の有効性及び効率性、2年目は資産の保全など、計画的に導入を進めていくことで、着実に健全な管理体制を構築することができます。
なお、M&A・事業承継を最終的な目標とする場合、内部統制の実質的な期限が定められることになります。M&Aの実施日に間に合うような計画性が求められるので、M&Aの専門家を交えたうえで、詳細なスケジュールを立てる必要があるでしょう。
内部統制がM&A・事業承継を実施する上での体制作りとなる理由

内部統制の課題をクリアして導入するためには企業としての体力が求められますが、内部統制を義務付けられていない中小企業にとって内部統制を導入する意味はあるのでしょうか。ここでは、M&A・事業承継における内部統制の重要性について解説します。
【M&A・事業承継における内部統制の重要性】
- M&A・事業承継を行う際に正しい企業価値を判定してもらうため
- 企業として信頼性や透明性を高めるため
- M&A・事業承継の際に人材の流出を防ぐため
1.M&A・事業承継を行う際に正しい企業価値を判定してもらうため
内部統制を導入すると、管理体制が適正であることを証明することができます。内部統制の目的である財務報告の信頼性や法令などの遵守は社会的信用に直結しており、M&A・事業承継の際の企業価値にも反映されます。
ですが、内部統制を導入していない企業は、財務書類などについて信頼性を得ることができません。M&Aの買い手側のリスク判断材料が圧倒的に不足するため、信用を得られず適正な企業価値評価を受けることができなくなります。
買い手の方針次第では、企業価値評価どころかM&A交渉段階に進めない可能性もあります。内部統制の導入はM&Aの買い手に与える安心感という意味でも大きな役割を持っています。
2.企業として信頼性や透明性を高めるため
内部統制が適切に導入されている企業は、信頼性や透明性を高めることができます。内部統制の目的の1つである資産の保全は、資産の不正運用がされておらず健全な事業活動に努めていることを対外的に証明することができます。
M&Aの買い手側は、資産の不正運用による法務リスクがないと判断することができるので、1つの安心材料を獲得することができます。
しかし、内部統制が機能していない企業は、資産の保全以外にも様々な要素で不正リスクが疑問視されることになります。内部統制導入による信頼性や透明性を高める効果はM&A・事業承継の場面でも大きな影響を与えています。
3.M&A、事業承継の際に人材の流出を防ぐため
M&Aの買い手側は人材の継続雇用を前提とすることが多いため、M&Aの交渉中に人材が大量に流出してしまうと、M&A交渉の停滞や中止などのリスク、pあります。
内部統制の導入は、人材流出対策としての機能もも期待できます。内部統制により企業全体の管理体制が整っていれば役員・従業員にとっても働きやすい環境であり、労務問題などの発生リスクも限りなく引き下げることができます。
M&A・事業承継の引継ぎの際も、従業員の自主退職を防ぎやすくなるので、M&A・事業承継の進行がスムーズになりやすくなります。
M&A・事業承継や内部統制のご相談はM&A総合研究所へ
内部統制は長期的な視野を持って取り組むことが必要なため、専門家によるサポートが必要不可欠です。M&A・事業承継やM&Aを前提とした内部統制の導入をご検討の際は、ぜひM&A総合研究所へご相談ください。
M&A総合研究所は、中堅・中小規模のM&A仲介を得意とするM&A仲介会社です。M&A仲介における豊富な実績があり、中小企業の内部統制導入にも携わっています。
直接サポートを担当するのは、M&Aや内部統制に精通したアドバイザー・弁護士の2名
豊富な経験・ノウハウを蓄積している専門家により、M&A・内部統制を全面的にサポートいたします。
M&Aの料金体系は完全成功報酬制を採用しています。M&Aが成約した段階で初めてM&A仲介手数料が発生する仕組みのため、成約に至らなかった場合はM&A仲介手数料をお支払いいただくことはありません。
M&A・事業承継や内部統制の無料相談は24時間お受けしています。M&A・内部統制の経験豊富なスタッフが真摯に対応させていだきますので、お気軽にM&A総合研究所までご連絡ください。
まとめ

内部統制は企業の管理体制を適正に保つための制度であり、社会的信用を獲得するために必要不可欠とされています。M&A・事業承継の場面においては、適切な企業価値評価を受けやすくなり、成功率の向上という効果にも期待できます。
ただし、内部統制を適切に導入するためには入念な計画が必要です。早期に着手しないとM&A・事業承継に間に合わなくなることもあるため、M&Aの専門家に相談しておくと計画性をもって進めることができるでしょう。
【内部統制の目的】
- 業務の有効性及び効率性
- 財務報告の信頼性
- 事業活動に関わる法令などの遵守
- 資産の保全
【内部統制が抱える課題】
- 仕組み作り
- 財務報告
【内部統制の課題クリアする際に重要なこと】
- 内部統制に必要な業務を分担して行う
- 内部統制は計画的に進める
【M&A・事業承継における内部統制の重要性】
- M&A,事業承継を行う際に正しい企業価値を判定してもらうため
- 企業として信頼性や透明性を高めるため
- M&A、事業承継の際に人材の流出を防ぐため