
電子機器・部品・回路基板製造業界は、市場規模縮小や国内市場減少など、厳しい状況を迎えており、業界全体でM&Aによる再編の動きが強まっています。
本記事では、電子機器・部品・回路基板製造業界のM&A動向や、成功するためのポイントを解説します。
目次
電子機器・部品・回路基板製造業界とは

電子機器・部品・回路基板製造業界は、市場縮小傾向が強まっているため、業界全体でM&Aが活性化しています。
多くの企業にとってM&Aが身近になりつつある今、事前にM&A動向や知識を得ておくことが重要になってくるでしょう。
この章では、電子機器・部品・回路基板製造業界の定義、業界の現状や動向について解説します。
電子機器・部品・回路基板製造業界の定義
電子機器とは、電子の連動を利用して映像・音声などを処理する機械のことです。テレビ・コンピューター・スマートフォンなど、あらゆる電化製品が該当します。
回路基板とは、電子部品同士の電気的な接続と機械的な配置の役割を担う、電子機器の主要部品の一つです。一般的にプリント基板と呼ばれています。
これらの製造を行う業界が、電子機器・部品・回路基板製造業界です。電子機器と回路基板製造を両方手掛ける企業もあれば、片方に専念する企業もあります。
電子機器・部品・回路基板製造業界の現状
電子機器・部品・回路基板製造のM&A動向を知るうえでは、業界の現状を確認しておく必要があります。業界の現状として特に目立っているのは、以下の3つです。
【電子機器・部品・回路基板製造業界の現状】
- 近年市場規模は縮小傾向にある
- 国内需要が伸びない
- 海外展開を視野に入れる企業も増える
1.近年市場規模は縮小傾向にある
近年の電子機器・部品・回路基板製造業界は、市場規模が縮小傾向にあります。2000年に約1.44兆円のピークを迎えるも、2018年には約半分の7000億円前後にまで落ち込んでいます。
ITバブルの崩壊やリーマンショックの影響と考えられており、現在も回復しきれておらず、業界全体が厳しい状況となっています。
2.国内需要が伸びない
先に挙げた市場規模縮小の影響で、電子機器・部品・回路基板製造を国内生産から海外生産に切り替えるメーカーが続出しています。この動きが業界全体で加速したことで、国内需要が限定的となっています。
3.海外展開を視野に入れる企業も増える
国内需要が限定的となったため、海外展開を視野に入れる企業はさらに増加しています。海外生産のほうが国内生産よりもコストを抑えられることも、海外展開を踏み切る要因となっています。
JPCA(一般社団法人日本電子回路工業会)の資料によると、日系企業の海外生産比率は、2001年の11.6%から2020年の60%まで急激に伸びていることが判明しています。
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電子機器・部品・回路基板製造業界の最新M&A動向

電子機器・部品・回路基板製造業界のM&Aを成功させるためには、業界のM&A動向確認が欠かせません。必ず押さえておきたいM&A動向は以下の3点です。
【電子機器・部品・回路基板製造業界の最新M&A動向】
- 大手企業は海外M&Aを積極的に活用
- 幅広い事業展開を計画する企業の増加
- 事業の強化・拡大を考えたM&A
1.大手企業は海外M&Aを積極的に活用
大手企業は海外M&Aを積極的に活用しています。海外M&Aが増える主な理由としては、国内需要が限定的であること、生産コストを抑えられることが挙げられます。
また、M&Aであれば短時間で海外拠点を確保できることも大きく、既に生産体制が整っている海外企業を取得できるので、効率的に海外進出を図ることができます。
2.幅広い事業展開を計画する企業の増加
電子機器・部品・回路基板製造の市場規模縮小を受けて、幅広い事業展開を計画する企業も増えています。
新事業の立ち上げは多大な労力がかかりますが、M&Aを活用すればノウハウを確立した企業を取得して、効率的に事業の幅を広げることができます。
事業の多角化はリスクヘッジの役割も果たすので、企業としての将来性・安定性を高める働きも期待できます。
3.事業の強化・拡大を考えたM&A
単純に事業規模を強化・拡大を狙うM&Aもみられます。製造技術の共有による製造効率の底上げや顧客の共有による販路拡大など、M&Aで得られるメリットはさまざまです。
電子機器・部品・回路基板製造業界のM&A事例で話題になるのは、大手同士のM&Aや海外M&Aなどですが、実際は中小企業が関わる事業規模拡大を目的としたM&Aが大多数を占めています。
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電子機器・部品・回路基板製造業界のM&A事例

この章では、電子機器・部品・回路基板製造業界のM&A事例のなかから、話題性のあるものや規模の大きいものを紹介します。
【電子機器・部品・回路基板製造業界のM&A事例】
- ウイルテックによるサザンプランの子会社化
- 長野計器によるスイスの温度測定機器メーカーの子会社化
- シェアリングテクノロジーによる電子プリント工業の子会社化
- 石川製作所による関東航空計器の子会社化
- NECによる中国の蓄電システム事業の買収
- パイオニアによるDJ機器事業の譲渡
- パナソニックによるSAWフィルタ事業の譲渡
- サンケン電気による子会社の譲渡
1.ウイルテックによるサザンプランの子会社化

https://www.willtec.jp/
2020年6月23日、ウイルテックはサザンプランの全株式を取得して完全子会社化しました。取得価額は5億9200万円(株式取得費用5億5000万円、アドバイザリー費用4200万円)です。
サザンプランは、中古ビジネスホンの買取・販売を中核事業とする企業です。仕入・メンテナンス・流通のビジネスモデルを確立し、独自の再生技術を武器に業績を伸ばしています。
ウイルテックは、電子部品の卸売や修理サービス事業を展開しています。サザンプランの持つ再生技術を取り込むことで、電子機器における販売力強化を目指します。
2.長野計器によるスイスの温度測定機器メーカーの子会社化

http://www.naganokeiki.co.jp/
2019年4月、長野計器はドイツの子会社Ashcroft Instruments GmbHを通じて、Rueger Holding SA(RHSA)の全株式を取得して完全子会社化することを公表しました。取得価額は10,300千CHF(約11億3000万円)です。
RHSAは、スイスを拠点に温度測定機器の開発・販売を行っている企業です。特に「Rueger」ブランドはスイス・フランスで絶大なブランドプレゼンスを持っています。
長野計器は、RHSAを子会社とすることで、欧州地域における石油化学・バイオテクノロジー・ディーゼルガスなどの市場分野で温度関連の製品を総合的に提供することが可能としています。
3.シェアリングテクノロジーによる電子プリント工業の子会社化

https://www.sharing-tech.jp/
2018年2月、シェアリングテクノロジーは電子プリント工業の全株式を取得して完全子会社化することを公表しました。取得価額は約6億5000万円(株式取得費用約5億9000万円、アドバイザリー費用約6000万円)です。
電子プリント工業は、白物家電や照明器具用のプリント配線板の製造・販売を手掛ける回路基板製造企業です。大手電機メーカーからの受注生産を基盤としており、安定的に業績を伸ばしています。
シャアテクグループに取り組むことで、さらなる企業価値拡大が図れると判断したことで、今回の子会社化へと至りました。
4.石川製作所による関東航空計器の子会社化

https://www.ishiss.co.jp/
2017年8月、石川製作所は関東航空計器の全株式を取得して完全子会社化することを公表しました。取得価額は4億7200万円(株式取得費用4億5200万円、アドバイザリー費用2000万円)です。
関東航空計器は、航空自衛隊の航空機用の搭載電子機器を製造販売する電子機器企業です。取引先の主体は航空自衛隊となっており、豊富な納入実績を持っています。
石川製作所は、機雷・地雷などの防衛機器や段ボール製函印刷機を中心とする、民生用電子機器の製造販売を手掛けています。
関東航空計器を取り込むことで、顧客・技術・製品などのあらゆる面から高いシナジー効果が得られるとしています。
5.NECによる中国の蓄電システム事業の買収

https://jpn.nec.com/
2014年4月、NECは中国の万向集団のA123 Systems社より蓄電システム事業を取得することを公表しました。取得価額は1億米ドル(約100億円)です。
多様化する顧客のニーズに対応するシステム「A123 Energy Solutions」とNECの総合的なSI力や競争力を合わせることで、蓄電システム事業の総合的な強化を目指します。
NECは、本M&A後にNECエナジーソリューションズを設立し、電力会社向け蓄電システム事業において世界トップクラス企業へと成長しています。
6.パイオニアによるDJ機器事業の譲渡

https://pioneer.onkyo.com/jp/
2014年9月、パイオニアはグループのDJ機器事業をPDJホールディングスへ譲渡することを公表しました。譲渡価額は590億円です。
会社分割によりDJ機器事業を引き継ぐパイオニアDJを新設し、株式をPDJホールディングスに譲渡する手法となっています。
本件について、パイオニアは事業の選択と集中としており、今後はグループの主力事業であるカーエレクトロニクス事業に注力することを明かしています。
7.パナソニックによるSAWフィルタ事業の譲渡

https://www.panasonic.com/jp/home.html
2014年4月、パナソニックは回路部品事業部におけるSAWフィルタ事業をスカイワークスソリューションズ社(米国)に譲渡することを公表しました。譲渡価額は148.5百万米ドル(約151億円)です。
パナソニックがシンガポールに新設する子会社にSAWフィルタ事業の譲渡後、当該子会社の株式66%をスカイワークスソリューションズ社に譲渡しています。
スカイワークスソリューションズ社は、独自のモバイル開発機能を強みとして、モバイル端末市場をリードしています。今後は両社一体でモバイル端末市場の発展に貢献するとしています。
8.サンケン電気による子会社の譲渡

https://www.sanken-ele.co.jp/
2020年8月、サンケン電気はパワーシステム事業における社会システム事業をGSユアサに譲渡することを公表しました。譲渡価額は48億円です。
社会システム事業を新設するサンケン電設に移した後、同社の全株式をGSユアサに譲渡する形となっています。
サンケン電気は、電気機械器具の製造・販売や電気工事・電気通信工事を手掛けています。今後は、主力事業である半導体デバイスとパワーモジュールに経営資源を集中させることで、競争力強化や企業価値の向上を目指します。
電子機器・部品・回路基板製造業界のM&A相場

電子機器・部品・回路基板製造業界のM&Aを検討するうえで、M&A相場は関心が高いポイントの一つです。
しかし、電子機器・部品・回路基板製造業界にかかわらず、M&Aにおける明確な相場は存在しないため、その都度、適切な価値を算出したうえでM&A交渉を行っています。
適切な価値を算出するために利用されている方法が企業価値評価です。時価純資産法やDCF法などがあり、前章で取り上げたM&A事例もこれらの評価方法を用いて算出されています。
自身で算出することも可能ですが、より適正な価値を算出するためには、専門家に相談することをおすすめします。
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電子機器・部品・回路基板製造業界のM&Aメリット

電子機器・部品・回路基板製造業界のM&Aが活性化する理由には、M&Aで得られるメリットが沢山存在することが挙げられます。
この章では、電子機器・部品・回路基板製造業界のM&Aにおける5つのメリットを売却側の視点から解説します。
【電子機器・部品・回路基板製造業界のM&Aのメリット】
- 後継者問題の解決
- 従業員の雇用を確保
- 顧客・取引先との関係を継続
- 個人保証・担保の解消
- 売却益の獲得
1.後継者問題の解決
電子機器・部品・回路基板製造業界のM&Aにおけるメリットの1つ目は、後継者問題の解決ができることです。
少子高齢化の影響で後継者問題が深刻化するなか、電子機器・部品・回路基板製造業界も後継者不足に悩まされる企業が増加しています。
M&Aにより大手グループの傘下に入ると、後継者問題を含めた一切の経営を託すことができるので、M&A後は後継者不足に悩まされることもなくなります。
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2.従業員の雇用を確保
電子機器・部品・回路基板製造のM&Aにおけるメリットの2つ目は、従業員の雇用確保です。後継者不足や経営状態の悪化などで廃業を検討することがありますが、経営者としては従業員の行末が気がかりになります。
その点、M&Aであれば買収側に従業員の雇用条件を引き継いでもらうことも可能なので、従業員が失業することはありません。
3.顧客・取引先との関係を継続
電子機器・部品・回路基板製造のM&Aにおけるメリットの3つ目は、、顧客・取引先との関係を継続できることです。
M&Aでは、従業員の雇用と同様、顧客・取引先についても買収側に引き継ぐことが可能です。
電子機器・部品・回路基板製造の買収側のM&Aの目的として、新規顧客の確保が挙げられることも多いので、M&A後に取引が打ち切られることはほとんどありません。
4.個人保証・担保の解消
電子機器・部品・回路基板製造のM&Aにおけるメリットの4つ目は、個人保証・担保の解消です。中小企業が金融機関から融資を受ける際、個人保証・担保を提供することとなり、経営者にとって大きなストレス要因になっています。
M&A手法に株式譲渡を用いれば、権利義務の全てを包括的に承継するので、個人保証・担保も引継ぎされることが一般的です。この場合は債務が残ることはないので、安心してM&Aを実施することができます。
5.売却益の獲得
電子機器・部品・回路基板製造のM&Aにおけるメリットの5つ目は、売却益の獲得です。電子機器・部品・回路基板製造のM&Aでは、会社の価値に応じた売却益を獲得することができます。
獲得した売却益は、新規事業の立ち上げ資金や今後の生活資金など、自由に使うことができますす。M&Aで会社を売却して、リタイア生活を実現させている経営者も大勢います。
電子機器・部品・回路基板製造業界のM&A・売却成功のポイント

電子機器・部品・回路基板製造業界のM&A・売却を成功させるために、押さえておきたいポイントがあります。ここでは、特に重要な3つポイントについて解説します。
【電子機器・部品・回路基板製造のM&A・売却成功のポイント】
- 新しいアイデアと技術力を持つ
- 一括生産、納期対応ができるように整える
- M&Aの専門家に相談する
1.新しいアイデアと技術力を持つ
買収側に効果的にアピールするためには、新しいアイデアや技術力を持っておくことが大切です。アピールポイントがあると、複数の買い手が名乗りを上げることも期待できます。
アイデアや技術力は即座に養えるものではありませんが、自社内にアピールポイントがある場合は分かりやすく資料としてまとめておくと、M&Aの成功率を飛躍的にあげることができます。
2.一括生産、納期対応ができるように整える
電子機器・部品・回路基板製造の工程を一手に担える企業は顧客を獲得しやすいので、買い手側から高く評価されることが多いです。
また、納期対応力も重要なポイントです。納期を守れる企業は製造ラインが確立されていることを証明できるので、企業としての価値を高めることに繋がります。
3.M&Aの専門家に相談する
電子機器・部品・回路基板製造のM&Aを、業界動向や成功ポイントを押さえながら成功させるためには、M&Aの専門家のサポートが必要不可欠です。
特におすすめの相談先はM&A仲介会社です。M&A仲介に特化した専門家なので、M&Aを成功させるために必要なノウハウを備えています。
電子機器・部品・回路基板製造業界のM&Aの相談先

電子機器・部品・回路基板製造業界のM&Aをご検討の際は、M&A総合研究所にご相談ください。M&Aの経験・知識が豊富なアドバイザー・会計士・弁護士の3名体制で徹底サポートをいたします。
電子機器・部品・回路基板製造業界に精通した専門家も在籍しています。常に変動し続ける業界動向を敏感に察知することができるので、M&Aのタイミングを逃すこともありません。
料金体系は完全成功報酬制を採用しています。発生する手数料は成約時の成功報酬のみなので、初期段階から最終的に必要な費用が明瞭化されています。
無料相談は24時間お受けしています。電子機器・部品・回路基板製造業界のM&Aをご検討の際は、お気軽にM&A総合研究所までご連絡ください。
まとめ

電子機器・部品・回路基板製造業界は、市場規模の縮小や国内需要の減少の影響でM&Aが活性化している業界です。
海外M&Aなどが目立っていますが、国内においても後継者問題によりM&Aが増加することが予想されています。
いざという時の備えとして、業界動向やM&Aの知識を得ておくと、万全の体制でM&Aに臨むことができるようになります。
【電子機器・部品・回路基板製造業界の現状】
- 近年市場規模は縮小傾向にある
- 国内需要が伸びない
- 海外展開を視野に入れる企業も増える
【電子機器・部品・回路基板製造業界の最新M&A動向】
- 大手企業は海外M&Aを積極的に活用
- 幅広い事業展開を計画する企業の増加
- 事業の強化・拡大を考えたM&A
【電子機器・部品・回路基板製造業界のM&Aのメリット】
- 後継者問題の解決
- 従業員の雇用を確保
- 顧客・取引先との関係を継続
- 個人保証・担保の解消
- 売却益の獲得
【電子機器・部品・回路基板製造のM&A・売却成功のポイント】
- 新しいアイデアと技術力を持つ
- 一括生産、納期対応ができるように整える
- M&Aの専門家に相談する