
アーンアウトについてお調べですね。
アーンアウトとは、M&Aで会社や事業などを売却した後、条件を満たした場合に譲渡対価を上乗せをして支払われる追加報酬のことです。
アメリカなど海外では多く活用されてきましたが、最近日本でもアーンアウトを活用するM&Aが増えてきました。
売り手企業・買い手企業ともにメリットのあるアーンアウトですが、場合によっては売り手側が損してしまうこともあります。
今回この記事では、アーンアウトの意味や目的、事例を分かりやすく解説。
気を付けなければならない注意点も詳しく説明しています。
アーンアウトについての理解を深め、自社にとって有利なM&A取引を実行しましょう。
目次
1.アーンアウト条項とは?

アーンアウト条項とは、M&Aで会社や事業を売却した後、一定の条件を満たした場合に買い手から売り手に支払われる追加報酬のことです。
一般的に日本で行われているM&Aでは、会社や事業を売却する際、買い手は買収時に全額対価を支払わなければいけません。
一方アーンアウト条項があれば、買い手は買収する段階で対価をすべて支払う必要が無く、その後の売上高などに応じて報酬を分けて支払うことができるのです。
まずは例を見てみましょう。
売却価格が1億円の会社Aを会社Bが買収した場合、通常の流れなら会社Bが会社Aに対して対価の1億円を支払ってM&A手続きは終了です。
しかし、「M&A後、会社の売上が3年で売上が1.2倍になった場合は、残り30%の譲渡対価と追加報酬を支払う」というアーンアウト条項が盛り込まれている場合、M&A成立時に支払う対価は70%です。
そして、もし会社AがM&A後、条件通り売上を1.2倍にした場合、買い手は残り30%の譲渡対価と、予め決めておいた追加報酬を支払う必要があるのです。
このようにM&Aで売却した事業の今後の業績を加味して、その後発生した利益に対して買い手企業が対価や報酬を支払う義務をアーンアウトと呼びます。
アーンアウト条項の内容は、M&Aを行う会社の状況によって大きく異なりますが、売り手、買い手ともにメリットのある条項です。
次は、売り手側から見てアーンアウト条項を盛り込むことにどんなメリットがあるのか、解説していきます。
2.売り手側から見るアーンアウト条項のメリット

売り手側から見るアーンアウト条項のメリットは、以下の通りです。
- 結果次第では譲渡益を大きくできる
- 買い手が積極的にM&Aを検討してくれる
- 社員の士気を保てる
昨今、日本のM&Aでもアーンアウト条項が導入される事例が増えています。
アーンアウトのメリットについて正しく理解し、M&Aを成功に導きましょう。
メリット1.結果次第では譲渡益を大きくできる
アーンアウト条項があれば、規定の条件を満たすことでトータルの譲渡益を大きくできます。
ほとんどのアーンアウト条項では、「3年後の段階で売上10億円以上達成」などの条件を達成すれば、売却金額の残りと、追加報酬をもらうことが可能です。
そのため、条件さえ満たせばトータルでの譲渡益はアーンアウト条項のないM&Aよりも大きくなります。
売上を達成できる見込みがあり、少しでも譲渡益を大きくしたい方はアーンアウト条項を盛り込むのがおすすめです。
メリット2.買い手が積極的にM&Aを検討してくれる
アーンアウト条項は、買い手のリスクを減らせる条項です。
買い手は分割で譲渡対価を支払える上、売り手の業績が下がった場合は残り対価の支払いもしなくて済むのでM&Aに向けて前向きになれます。
業績が落ちている、債務を抱えているなど「買い手が見つかるか不安」という状態の会社でも、アーンアウト条項を入れてくれるならM&Aを検討する、という買い手は少なくないでしょう。
より多くの買い手とM&A交渉のチャンスを得たいなら、アーンアウト条項について検討を進めるべきです。
メリット3.社員の士気を保てる
アーンアウト条項があれば、社員の士気を保つことが可能です。
M&Aで買収されると、「どうせ将来は出世できない」「買収される会社に未来はない」とネガティブになり、仕事へのモチベーションを下げてしまう社員は少なくありません。
しかしアーンアウト条項で売上目標を設定し、達成した場合には社員にも還元するという条件があれば、社員の士気をキープできます。
たとえ短期的な目標であっても、社員のモチベーションを保ち会社にとどまらせることは非常に重要です。
M&A後の大量離職を防ぐためにも、アーンアウト条項は非常に効果的だと言えるでしょう。
以上が、売り手側から見るアーンアウト条項のメリットでした。
次は、買い手から見るアーンアウト条項のメリットを紹介していくので、アーンアウト条項への理解を深めるためぜひチェックしてください。
3.アーンアウト条項を盛り込む買い手の目的

アーンアウト条項を盛り込みたいと考えている買い手の目的は、主に以下の2つです。
- 買収時のリスクを減らしたい
- 分割して買収金額を支払いたい
一般的に買い手企業は、売り手企業よりもM&Aにおけるリスクが高い状態にあります。
それは、買い手企業が売り手企業の全てを短期間で調査するのは難しく、売り手企業が債務を隠していたり、業績が悪化したのを誤魔化したりしても気づかない恐れがあるためです。
また以下の記事で詳しく紹介していますが、売り手に悪意が無い場合でも、様々な事情によりM&A後に売り手企業の業績が大きく下がる可能性もあります。
M&Aは、買い手側から見て時には数十億円にも及ぶ大規模な投資です。
多額の投資を行ったにもかかわらず売り手企業が期待ほど業績を上げられない場合、買い手はかなり損をしてしまうでしょう。
そのため買い手は、アーンアウト条項を使いリスクを減らそうと考えるのです。
アーンアウトを活用すれば譲渡対価を分割で支払うことができるので、金銭的な負担は減ります。
また、売り手企業で利益が出なければ、支払う対価はアーンアウト条項を盛り込まなかった場合より少なくなるので適切な投資を実現しやすいです。
買い手はアーンアウト条項により、安心して買収ができるようになると言えるでしょう。
次は、アーンアウト条項を盛り込む際の手続きについて解説していきます。
アーンアウト条項を盛り込んだM&Aに興味を持っている方はぜひ参考にしてください。
4.アーンアウト条項を盛り込む手続きの流れ

アーンアウト条項を盛り込んだ時の手続きの流れは、以下の通りです。
- アーンアウト条項の締結
- アーンアウトの支払い条件の評価
- 買い手企業による追加報酬の支払い
アーンアウト条項では、条項で決められた期間の終わりに評価や手続きを行う必要があります。
1年後、2年後、3年後くらいまでスケジュールを考えた上で、条項の内容を決めましょう。
流れ1.アーンアウト条項の締結
まずは、アーンアウト条項を締結しましょう。
アーンアウト条項は、基本合意時に買い手と売り手、双方の同意を得る必要があります。
このときに、以下の内容を取り決めるようにしましょう。
基本額 | M&A成立時に無条件で支払う額 |
追加報酬 (アーンアウト額) |
定めた条件を満たしたときに支払われる追加報酬額 |
アーンアウトの支払い条件 | 「1年後売り上げが10億円以上を達成させる」 「2年以内に申請中の特許が承認される」 など、追加報酬を支払うための条件 |
支払い時期 | 追加報酬を支払う時期 |
これらの内容は必ず最終契約書にも明記するようにしましょう。
流れ2.アーンアウトの支払い条件の評価
M&A成立後、アーンアウトの支払い条件について評価を行います。
評価期間はアーンアウトの支払い条件によって異なりますが、M&A成立後3年以内が一般的です。
この期間が長くなればなるほど、M&A成立時には予測していなかったことが発生する可能性が高くなります。
そのため、できるだけ短く設定する必要があるのです。
設定された条件の期間が経てば、アーンアウトの条件が達成されているか判断を行います。
流れ3.追加報酬の支払いを買い手側が行う
アーンアウトの支払い条件が達成されていれば、買い手側から追加報酬が支払われます。
追加報酬は「目標売上を超えたら10億円支払う」「利益の2分の1を支払う」など条件によって様々です。
評価後迅速に支払われるよう、支払い時期を設定しておきましょう。
5.アーンアウト条項を使ってM&Aが行われた事例

アーンアウト条項を盛り込み、M&Aを成立させた事例は以下の通りです。
- マネックスとCoincheckの事例
- DeNAとNgmocoの事例
どんな状況でアーンアウト条項が盛り込まれ、売り手と買い手にどんな利益をもたらしたかそれぞれの事例で知っておきましょう。
事例1.マネックスとCoincheckの事例

アーンアウト条項が利用されたM&Aの事例としては、マネックスによるCoincheckのM&Aが有名です。
2018年4月、マネックスは仮想通貨交換業者のCoincheckを36億円で完全子会社化すると発表しました。
このM&Aでは、追加で譲渡対価を支払うアーンアウト条項が定められています。
具体的なアーンアウト条項の内容は以下の通りです。
- 18年~21年3月期までの3年間の純利益合計額に対し、2分の1を上限に追加で取得費用を支払う
ただし、いつ・いくらの費用が支払われるのかまでは公表されていません。
このM&Aにおいて、アーンアウト条項が盛り込まれた理由は2つあります。
- M&A時、まだ仮想通貨交換業の登録を済ませておらずみなし業者だったから
- Coincheckは過去に不正流出問題を起こしていて、イメージが悪かったから
このような理由から、マネックスはアーンアウト条項を設けてリスク分散を図ったのです。
まだ定められた3年が経過していないため、アーンアウト条項の結果は現在のところ判断できません。
しかしCoincheckと同様、過去の実績に不安がある会社は買い手側からアーンアウト条項の盛り込みを提案される可能性があると言えるでしょう。
事例2.DeNAとNgmocoの事例
次に紹介するのは、DeNAとNgmocoの事例です。
買収の目的は、Ngmoco社の持つソーシャルネットワーク基盤を手に入れ、世界のモバイル市場に向けて事業展開を行うこととされています。
このM&Aでは、アーンアウト条項が盛り込まれており、2011年12月の段階で終了するその年の実績に応じて報酬を支払うというもので、支払われる金額は最大で約85億円です。
買収金額や、アーンアウト条項で盛り込まれた追加の報酬が非常に高額だと当時は話題になりましたが、円高などが影響しこの金額で決着したと言われています。
このように、海外企業との事例ではアーンアウト条項が盛り込まれるケースが多々あります。
M&A先として海外企業も検討しているなら、アーンアウト条項を盛り込んだ上でM&A戦略を作っていくことが大切でしょう。
海外企業とのM&Aの特徴や意識すべきポイントについては、以下の記事でも解説していますので、ぜひ参考にしてください。
以上が、アーンアウト条項が盛り込まれた事例でした。
アーンアウト条項は、特に海外で一般的となっており今後日本でも取り入れる企業が増えていくものと予想されます。
これからM&Aで会社や事業を売却したいと考えている方は、「アーンアウト条項についての話が出るかもしれない」と考えておくのが良いでしょう。
しかしアーンアウト条項は売り手にとって不利になるケースもあるので、条項の締結には注意が必要です。
次は売り手側が意識しておくべきアーンアウト条項のデメリットを解説していくので、ぜひ事前に確認しておいてください。
6.アーンアウト条項を結ぶ際の注意点3つ

M&Aにおいて、アーンアウト条項を結ぶ際に買い手が気をつけておくべきポイントは、以下の通りです。
- 買い手が業績を低く出す可能性がある
- 条項の設定期間が長くなると目標達成が難しい
- 売却時に受け取れる対価が減ってしまう
アーンアウト条項には売り手側にもメリットがありますが、どちらかと言うと買い手側のメリットを大きくする条項です。
そのため状況によっては売り手が不利になってしまうケースもあるので、条項の締結には慎重になる必要があります。
それぞれの注意点を確認し、納得した上でM&Aを進めていきましょう。
注意点1.買い手が業績を低く出す可能性がある
アーンアウト条項を盛り込んだ場合、買い手が追加で報酬を支払いたくないがために業績を下方操作する可能性があります。
もちろんそうした不正は許されないことですが、買い手が業績を下降修正しているかどうか確認するのにかなりの時間が取られかねません。
こういった事態を防ぐためには、アーンアウトの権利を侵害する行為を一切禁止するといった内容を盛り込む必要があります。
また、財務指標をアーンアウトの支払い条件の基準にするのではなく、一定の事実の発生をアーンアウト条項の基準にするのも有効です。
例えば、特許の取得や認可の取得などを報酬支払いの条件とするのも良いでしょう。
注意点2.条項の設定期間が長くなると目標達成が難しい
3年以上など長期間の条件設定でアーンアウト条項を結ぶ場合、目標達成が難しくなります。
例えば5年後に売上10億円達成という条件を付けたとしても、現時点で売り手の持っている資源が5年後の売上にどれほど影響を与えるかは予想できません。
また、そもそも長期間の業績の予測は不確定要素が多く、非常に困難なので売り手と買い手双方が納得する条件を作るのは困難です。
アーンアウト条項の条件達成期間として適切なのは、一般的に1〜3年とされています。
3年以上の条件で合意するのは、避けたほうが良いでしょう。
注意点3.売却時に受け取れる対価が減ってしまう
アーンアウト条項は、条件達成時に残りの譲渡対価を支払う制度なのでM&A成立時点で受け取れる金額はアーンアウト条項を結ばない場合より減ります。
アーンアウト条項で決められた条件を達成できる見込みがあるなら問題ありませんが、もし達成できなかった場合は受け取れる対価は減少するのです。
会社売却後すぐにリタイアしたい方など、早い段階で確実に対価を受け取っておきたい方はアーンアウト条項について慎重に検討する必要があります。
以上が、アーンアウト条項を結ぶ際の注意点でした。
アーンアウト条項は、達成できれば大きな利益に繋がりますが条件を達成できなかった場合のリスクが上がります。
M&Aでアーンアウト条項を盛り込むかどうかは、一度専門家に相談するのがおすすめです。
次はアーンアウト条項について専門家に相談すべき理由と、相談先をご紹介していきます。
7.アーンアウト条項を結ぶべきかは専門家にご相談を

アーンアウト条項には、売り手側から見ると注意点が多くあるため、条項を盛り込んでM&Aを実現するには専門家からの助言が必要です。
特に、アーンアウト条項の締結には時間がかかるため、スピーディに事業承継をしたい方は必ず専門家にサポートしてもらわなければいけません。
アーンアウトを使って会社を売却するなどの意見が社内から出ている場合、早めに専門家に相談し、アーンアウト条項の導入がベストかどうか専門家の判断を仰ぎましょう。
アーンアウト条項や、M&Aのやり方について聞ける仲介会社が、M&A総合研究所です。
M&A総合研究所では、数多くのM&Aサポートを実現したM&Aアドバイザーと公認会計士が、1名ずつ専任でM&Aをサポートいたします。
専任アドバイザーは買い手との交渉に同席し、M&A時の条件をどうするか、どうやって書類を作るのか丁寧にアドバイスを行うことが可能です。
もちろん、買い手との交渉の際にアーンアウト条項を盛り込むかどうかについても、専門家として誠実に判断します。
M&A総合研究所は、M&A成立時のみ報酬を支払う完全成功報酬制です。
お問い合わせやご相談は完全無料となっているので、アーンアウト条項が自社に合うかどうか判断しかねる場合はぜひ当社のアドバイザーと話してみてください。
8.まとめ
アーンアウト条項とは、売却後に条件を満たした場合に譲渡対価を上乗せをして支払われる追加報酬のことです。
アーンアウト条項があると、条件を満たしたときの譲渡益を大きくすることができますが、契約に時間がかかる、条件を達成できなかった時の利益が小さくなるなどの問題もあります。
アーンアウト条項を盛り込むかどうかについては、必ず専門家に相談して自分の会社と買い手、それぞれの利益につながる選択をしましょう。