事業承継税制の要件・注意点をわかりやすく解説【チェックリスト付】

事業承継税制の要件・注意点をわかりやすく解説【チェックリスト付】

事業承継税制とは、事業承継を行う中小企業経営者に対して、税制面からの支援を行う制度です。税制優遇が受けられるため積極的に活用したい制度ですが、申請にあたっては適用要件を満たす必要があります。

本記事では、事業承継税制の要件や注意点を解説するとともに、申請時に役立つチェックリストも掲載しています。

事業承継税制とは 

事業承継税制とは
 
事業承継税制とは、後継者へ事業承継を行う中小企業経営者に対して、税制面から支援する制度です。
 
資金面や税金面の問題で事業承継を躊躇している場合、事業承継税制を活用することで取り組みやすくなり、スムーズな事業承継が実現可能になります。

事業承継税制について

事業承継税制は、事業承継を実施する中小企業に対して税制面から支援する制度であり、税制優遇が受けられるのは相続税と贈与税となっています。
 
事業承継税制は、2008年に施行された経営承継円滑化法が元になっています。さまざまな理由から事業承継が行えない中小企業を救うためにできた総合的な支援策ですが、要件の厳しさから利用する中小企業が少ないという問題がありました。

新・事業承継税制とは

要件の厳しさから利用する中小企業が少なかった以前の事業承継税制を踏まえ、新たな税制では要件を大幅に緩和した特例措置が創設されました。
 
特例措置は2027年までしか活用できず、これまでの措置を一般措置として区別しています。新たな税制は以前の事業承継税制よりメリットが増えただけでなく、リスクとなっていた要件が大幅に緩和され、利用しやすくなっています。

制度が改正された理由

従来の事業承継税制がほとんど活用されなかった大きな要因は、雇用確保要件に関するリスクです。
 
従来の事業承継税制では、事業承継時の8割の雇用を維持していなければ納税猶予が取り消されるという要件がありました。
 
2015年の税制改正では、5年間すべて8割雇用を維持するという要件が、5年間平均で8割雇用を維持するという要件に変更されました。
 
これにより事業承継税制の利用者は多少伸びましたが、まだまだ事業承継が必要な中小企業のごく一部という状態でした。
 
今後急増する中小企業の廃業に備えるためには、さらに要件を緩和して事業承継税制を利用しやすく必要があるとして、2018年に事業承継税制の要件を大幅に緩和した特例措置が創設されています。

事業承継税制の概要 

事業承継税制の概要
 
事業承継税制の活用を検討している場合は、どのような制度であるかを正しく理解しておく必要があります。本章では、事業承継税制の概要を解説します。

事業承継税制の概要

事業承継税制は旧制度と比較してさまざまな点が改善されています。ここでは、旧制度と比較したメリットを紹介します。

旧制度との比較

事業承継税制のメリットは、株式を後継者に集中しやすい点です。株式が分散していると、後継者による事業承継後の経営に支障がでる可能性があるため、特例措置によって株式の集中がやりやすいよう要件が緩和されました。
 
通常、年間110万円を超える贈与を受けると贈与税がかかります。事業承継税制を活用しない場合は多額の贈与税を納めるか、時間をかけて毎年少しずつ贈与していかなければなりません。
 
しかし、事業承継税制を活用することで、株式の集約を少ないリスクで一気に進めることができるようになりました。
 
また、事業承継税制では、最大3人の後継者まで納税猶予による株式贈与ができるよう要件が緩和されています。
 
親族外への事業承継も行いやすいように、直系親族以外が後継者となる場合でも相続時精算課税制度の適用が認められるよう要件が緩和されています。

事業承継税制のリスクの軽減

新らしい事業承継税制では、従来の事業承継税制に比べてリスクも軽減されています。

旧制度との比較

従来の事業承継税制では、5年間で平均8割の雇用維持要件を満たさないと、納税猶予が取り消されるリスクがあります。この要件が中小企業の事業承継を躊躇させる要因ともなっていました
 
新・事業承継では、5年間で平均8割の要件を維持できなかった場合においても、やむを得ない理由があれば納税猶予を継続できるように変更されています。
 
また、事業承継後5年が経った後に事業継続が難しくなった場合は、猶予されていた納税金額の一部が免除されるようになりました。
 

事業承継税制の要件

事業承継税制の要件
 
事業承継税制を活用できるのは、経営承継円滑化法に定める中小企業者のうち、一定の要件に該当する中小企業です。
 
経営承継円滑化法に定める中小企業者に該当するには、業種ごとに定められた資本金か従業員数のどちらかを満たしている必要があります。
 
【事業承継税制の適用対象となる中小企業の要件】
  • 経営承継円滑化法に定める中小企業者であること
  • 上場会社でないこと
  • 風俗営業会社に該当しないこと
  • 資産管理会社に該当しないこと
  • 従業員が1名以上いること
贈与者に関する要件もあり、贈与者が先代経営者であるかそれ以外であるかによって違います。
 
【先代経営者の要件】
  • 会社の代表権を有していたこと
  • 贈与の直前に、贈与者および親族などで発行済株式数の50%超を所有し、かつ、親族などの中で後継者を除いて最も多くの株式を所有していたこと
  • 贈与時に代表権を有していないこと
【先代経営者以外が贈与者の場合の要件】
  • 贈与時点で会社の代表権を有していないこと
  • 先代経営者の贈与後に贈与を行うこと
  • 一定数以上の株式を贈与すること
  • すでに特例措置の適用を受ける贈与をしていないこと
また、贈与者だけでなく、後継者についても以下のような要件が決められています。
 
【後継者の要件】
  • 贈与時点で後継者を含めた同族関係者で発行済株式数の50%超を所有していること
  • 贈与時点で20歳以上であること
  • 贈与時点で役員就任から継続して3年以上経過していること
  • 贈与時点で代表権を有していること
  • 後継者が1人の場合、同族関係者の中で後継者が1番多く株式を保有していること
  • 後継者が複数の場合、後継者全員が全株式の10%以上を保有し、かつ後継者全員が同族関係者の中で後継者以外の者よりも多い株式を保有していること
これらのほか、持株比率の要件や雇用確保の要件もあります。持株比率の要件では、親族で50%超の株式を保有していなければなりません。また、雇用確保の要件では、5年間平均で8割以上の雇用を維持している必要があります。

事業承継税制の適用期間

事業承継税制の適用期間
 
事業承継税制では、2018年1月1日から2027年12月31日までの10年間、従来の「一般措置」より要件が緩和され利用しやすくなった「特例措置」が活用できるようになりました。
 
2023年3月末までに計画書を提出し、2027年末までに贈与・相続を実施することができれば、特例措置を活用することができます。
 
特例措置の適用期間であれば、対象となる株式数は発行済株式数の最大3分の2であったものが全株式に適用され、評価額に対する納税猶予の割合が相続税と贈与税ともに100%となります。
 
また、後継者の人数は1人までであったのが最大3人まで適用されるなど、さまざまな特例が設けられています。

相続税の納税猶予

相続税の納税猶予
 
相続税の納税猶予は、承継者の死亡による相続発生時から始まります。先代経営者が亡くなると、納税が猶予されていた贈与税が免除され、相続税として課税されます。ここからは、相続税の納税猶予へと切り替えられることとなります。
 
その後、さらに次の後継者への贈与が発生した場合は税金が免除されます。また、もし後継者が亡くなった場合も税金が免除されます。
 
なお、途中で適用要件に該当しなくなった場合は、適用が取り消される可能性があります。

贈与税の納税猶予

贈与税の納税猶予
 
贈与税の納税猶予を受けるためには、2023年3月31日までに特例承継計画を提出する必要があります。その後、2027年12月31日の株式贈与実施期限前に先代経営者が代表を退き、後継者へ株式贈与を実施します。
 
認定申請書の提出や税務署への申告を終えると、贈与税の納税猶予が開始されます。贈与税の納税猶予は5年間の特例経営贈与承継期間適用され、毎年1回年次報告書と継続届出所を提出することが継続の要件となっています。
 
5年経過後は、3年に1回継続届出所を提出することが継続要件となっています。 なお、相続税の場合と同じく、途中で適用要件に該当しなくなった場合は、適用が取り消される可能性があります。
 

納税猶予額の計算方法

納税猶予額の計算方法
 
納税猶予が受けられる相続税と贈与税の額はどのように計算されるのでしょうか。本章では、納税猶予額の計算に用いる相続税と贈与税の計算表を掲載します。

相続税の計算方法

相続税は、下表のようにそれぞれの範囲に応じた税率と控除額によって計算されます。
課税価格 税率 控除額
1000万円以下 10% なし
3000万円以下 15%
50万円
5000万円以下 20% 200万円
1億円以下 30%
700万円
2億円以下   40% 1700万円
3億円以下 45% 2700万円
6億円以下 50% 4200万円
6億円超 55% 7200万円

贈与税の計算方法

贈与税の課税方式には、暦年課税と相続時精算課税の2つの方式があります。暦年課税と相続時精算課税の適用要件は、以下のようになっています。
 
  暦年課税 相続時精算課税
贈与者 制限なし 60歳以上の父母または祖父母
受贈者 制限なし 20歳以上の子どもや孫
非課税枠 受贈者1人につき年間110万円 受贈者1人につき2,500万円
税率 110万円超分に対し累進課税 2500万円超過分に対し一律20%
相続時 死亡時の3年前までの贈与分を他の相続財産に加算して相続税課税 死亡時に贈与分全額
選択の届出 不要 相続時精算課税選択届出書を税務署に提出
選択の切り替え いつでも可 切り替え不可
申告 非課税枠内であれば申告不要
その都度申告

また、贈与税の計算方法は以下の通りです。

課税価格 税率 控除額
200万円以下 10% なし
400万円以下 15% 10万円
600万円以下 20% 30万円
1,000万円以下 30% 90万円
1,500万円以下 40% 190万円
3,000万円以下 45% 265万円
4,500万円以下 50% 415万円
4,500万円超 55% 640万円

事業承継税制の注意点

事業承継税制の注意点
 
事業承継税制が適用されても、その後一定の要件に該当した場合、猶予税額が免除になったり納税猶予が取り消されたりするケースがあります。この章では、事業承継税制の注意点について解説します。

免除事由がある

事業承継税制では、贈与税と相続税の猶予税額が免除される場合があります。それぞれが適用されるケースは以下のとおりです。
 
【贈与税の猶予税額が免除されるケース】
  • 先代経営者が死亡した場合
  • 後継者が死亡した場合
  • 後継者が次代の後継者へ贈与した場合
 
【相続税の猶予税額が免除されるケース】
  • 相続人が死亡した場合
  • 相続人が次代の後継者へ贈与した場合

取消事由がある

事業承継税制の納税猶予が取り消される要件には、5年の特例経営承継期間中だけの要件と5年経過後も続く要件とがあります。ここでは、特例措置の納税猶予が取り消しになる要件を確認します。
 
【特例経営承継期間中の取消要件】
  • 毎年の届出を怠った場合
  • 後継者が代表者を退任した場合
  • 5年平均従業員数が事業承継時の80%要件を下回った場合(正当な理由があれば要件の適用可)
  • 後継者を含む相続関係者の議決権が総議決件数の50%を下回った場合
  • 後継者以外の同族関係者の議決権が後継者の議決権を超えた場合
  • 納税猶予対象株式を譲渡した場合
  • 会社が破産または清算した場合
 
【期間のない取消要件】
  • 税務署への届出を怠った場合
  • 資産管理会社になった場合(従業員が5人以上の要件に該当すれば除外)
  • 納税猶予対象株式の全部または一部を譲渡した場合
  • 本業の収入がなくなった場合

業績が悪化した場合の特例

取消要件に該当してもやむを得ない理由がある場合は、取消要件から除外されるケースもあります。
 
そのひとつが業績が悪化した場合の特例であり、業績悪化によって会社の株式を譲渡したり、ほかの会社に合併吸収されたりしたケースでは、その時の株価で再計算したうえで差額が免除されます。
 
そのほか、以下の理由でも取消要件から除外される場合があります。
  • 精神障害者福祉手帳(障害等級1級)、身体障害者手帳(障害等級1級または2級)の交付を受けたこと
  • 介護保険の要介護認定で要介護5の認定を受けたこと
  • 上記の事由に類すると認められること

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事業承継税制のメリット・デメリット

事業承継税制のメリット・デメリット
 
事業承継税制の活用を検討する際は、メリットだけでなくデメリットも把握しておく必要があります。この章では、事業承継税制のメリット・デメリットを解説します。

メリット

事業承継税制を活用することで、主に以下3つのメリットが得られます。
  1. 中小企業の非上場自社株式を非課税で後継者に移転できる
  2. 先代経営者の生前に早期に株式を後継者に移転できる
  3. 中小企業の相続税対策として有効

1つ目のメリットは、中小企業の非上場自社株式を非課税で後継者に移転できる点です。自社株式を後継者に渡す場合は、税金が発生します。しかし、事業承継税制を活用することで、非課税で後継者に渡すことができます。

2つ目のメリットは、先代経営者の生前に早期に株式を後継者に移転できる点です。事業承継税制を活用せずに後継者へ株式を渡そうとすると時間がかかり、事業承継がなかなか進まない可能性があります。

3つ目のメリットは、中小企業の相続税対策として有効な点です。相続の規模によっては多額の税金を期限までに支払わなければなりませんが、事業承継税制を活用することでその負担を軽減できます。

デメリット

一方、事業承継税制のデメリットとしては、前述の取消要件に該当すると、猶予されていた税金を支払わなければならなくなる他、利息も支払わなければならなくなる可能性がある点が挙げられます
 
また、事業承継税制の活用はまだまだ少ないため、専門家であっても事業承継税制活用支援の経験がないケースがある点もデメリットのひとつです。事業承継税制を活用する際は、経験のある専門家に相談する必要があります。
 
会社を譲渡する方法には、M&Aを活用した事業譲渡もあります。M&Aを活用した事業譲渡を行うことで、親族間での事業譲渡では得られないさまざまなメリットも得られます。
 
M&A総合研究所は、さまざまな業種でのM&A支援実績を有する仲介会社です。豊富な経験を持ったM&Aアドバイザーがサポートに就き、ご相談からご成約まで迅速かつ丁寧に対応いたします。
 
 
完全成功報酬制の手数料体系となっておりますので、M&Aによる事業承継が成立するまで安心して手続きを進めていただけます。
 
無料相談も随時受け付けておりますので、M&A・事業承継でお悩みの際は、M&A総合研究所までお気軽にご相談ください。
 

事業承継税制を申請するためのチェックリスト

事業承継税制を申請するためのチェックリスト
 
事業承継税制を申請するためには、事業承継税制(特例措置)の適用要件を満たしていなければなりません。
 
それ以外に、事業承継税制を活用するメリットがあることや、特例措置の期限までに事業承継税制の活用が可能である必要があります。
 
本章では、事業承継税制(特例措置)の申請をするための簡単なチェックリストを紹介します。以下のチェックリスト項目に該当していれば、事業承継税制の適用要件を満たしながら、事業承継税制のメリットも享受することができます。
 
【事業承継税制(特例措置)申請時のチェックリスト】
 
  1. 経営者の株価総額が1憶円を超えるか
  2. 会社の純資産価額が5憶円を超えるか
  3. 経営者が代表権を返上できるか
  4. 5年以内に特例承継計画を提出できるか
  5. 10年以内に株式贈与できるか
  6. 後継者は5年以上経営を維持できるか
  7. 会社の要件を満たしているか
  8. 後継者が20歳以上かつ役員就任3年以上か
  9. 経営者が60歳以上か

まとめ 

まとめ 
 
事業承継税制は、中小企業経営者が後継者を引き継ぐ際に相続税と贈与税とで税制優遇が受けられる制度です。
 
適用要件などが複雑でわかりにくい部分もありますが、事業承継を検討している場合は積極的に活用したい制度であるため、専門家にサポートを受けながら手続きを進めていくとよいでしょう。
 
【事業承継税制のメリット】
  1. 中小企業の非上場自社株式を非課税で後継者に移転できる
  2. 先代経営者の生前に早期に株式を後継者に移転できる
  3. 中小企業の相続税対策として有効

【事業承継税制のデメリット】

  1. 取消要件に該当した場合、猶予分の税金を利息を含めて支払わなければならない
  2. 専門家によっては事業承継税制活用支援の経験がないケースがある
【事業承継税制(特例措置)申請時のチェックリスト】
  • 経営者の株価総額が1憶円を超えるか
  • 会社の純資産価額が5憶円を超えるか
  • 経営者が代表権を返上できるか
  • 5年以内に特例承継計画を提出できるか
  • 10年以内に株式贈与できるか
  • 後継者は5年以上経営を維持できるか
  • 会社の要件を満たしているか
  • 後継者が20歳以上かつ役員就任3年以上か
  • 経営者が60歳以上か