
会社売却に関する相談内容によく見受けられるのが、「債務を抱えている会社でも買い手が付くのか」というものです。
現在は赤字でも将来的に収益が見込まれると判断されれば、売却の可能性は十分にあります。本記事では、会社売却を行う際の成功ポイントと赤字・債務超過の会社売却の注意点を解説します。
目次
会社売却とは

会社売却とは、会社が手掛ける事業の売却や会社そのものの売却を意味する言葉です。会社売却と聞くと、一昔前までは「会社の身売り」というイメージがありましたが、近年は会社が抱える経営課題の解決を目的とした前向きな経営戦略として捉えられる傾向にあります。
会社売却は増加している
2019年の国内M&A成約件数は4,000件を突破(レコフ調べ)しており、そのうちの大半は、会社売却に該当する取引であることも判明しています。
M&Aの成約件数は毎年更新を続けており、この勢いはまだまだ続いていくという見方がされています。
会社売却が増えている理由
会社売却が増えている主な理由は、後継者問題を抱える会社や赤字・債務超過の会社が増加していることにあります。
後継者問題は特に中小規模の会社で深刻となっており、会社を存続させるために会社売却するケースが増えています。
一方、赤字・債務超過の会社については、人材不足や業界内の競争激化などが挙げられます。近年の国内の人口減少や少子高齢化の影響は、さまざまな会社の労働力に影響を及ぼしており、経営状態を圧迫させる要因になっています。
また、同業同士における顧客獲得競争や受注単価引き下げも深刻です。一時的に業績を回復させることはできますが、互いに実入りを減らしてしまう行為なので、結局は会社の力が削がれていってしまいます。
こうした背景から会社が抱える債務が拡大し続け、会社売却による再建を検討する会社が増えています。
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会社売却は赤字・債務超過でもできる?

結論からいえば、赤字・債務超過の会社売却は可能です。会社の価値を決定するうえで重視されるポイントは、決して財務状況だけではありません。
技術や特許、人材などは財務状況に反映されることはありませんが、無形資産として確かに会社の価値として認められています。
また、表面上は赤字・債務超過であったとしても、無形資産を加味した総合的な評価では結果的に黒字という会社も珍しくありません。
この価値は債務を抱えている会社売却においても有効です。無形資産は将来的な価値として判断されることで、会社としての価値を上乗せすることになり、会社売却の売却益を増加させることに繋がります。
高い評価を受けた事業を売却することで会社の債務を解消して立て直しすることも十分に可能です。
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赤字・債務超過した会社の売却方法

赤字・債務超過の会社売却なら、会社の状況や目的に合わせた方法を選択することが大切です。この章では、会社売却の方法を解説します。
【赤字・債務超過した会社の売却方法】
- 株式譲渡による会社売却
- 事業譲渡による会社売却
- その他の手法による会社売却
1.株式譲渡による会社売却
株式譲渡は、売り手が保有する株式を譲渡(売却)することで経営権を移転する手法です。会社自体に変化を与えずに会社売却するため、最も簡便で利用頻度が高くなっています。
株式譲渡における債務の引き継ぎに関しては、買い手が自動的に引き継ぐことになります。株式譲渡は包括的な承継となるので、債務を含めた全ての資産・負債を承継します。したがって、会社の資産だけを売却して債務だけが取り残されるという心配はありません。
2.事業譲渡による会社売却
事業譲渡は、事業あるいは事業の一部を譲渡(売却)する手法です。会社の経営権を維持したまま特定事業の切り離しを行える便利な手法として広く利用されています。
事業譲渡において債務を引き継ぎするためには、会社売却の買い手と債権者の同意を得た上で個別に契約を結ぶ必要があります。
個別の契約は交渉が長引く要因にもなるため、事業譲渡においては債務の引き継ぎを行わないことも多いです。債務の引き継ぎがなければ、買い手も事業に対する正当な評価がしやすく、交渉が円滑に進む可能性が高くなります。
売り手は譲渡する事業相応の売却益を獲得できるので、それを債務の解消にあてて会社の立て直しを図ることが可能です。
3.その他の手法による会社売却
会社売却で利用されるそのほかの手法には「合併」があります。合併は、2つ以上の会社を1つの会社に統合する手法であり、被合併会社は全ての資産・負債を引き継ぎして消滅する特徴があります。
赤字・債務超過の会社売却で合併を利用するメリットは節税効果にあります。被合併会社の債務と合併会社の利益部分との相殺を行うことで、その期の純利益を抑えて法人税を大幅に安くすることができます。
ただし、合併は会社の消滅を意味します。株式譲渡は会社の経営権を手放すものの会社の名前は残り、事業譲渡では経営権が維持されます。合併は債務問題からの解放と同時に会社が消滅することに注意が必要です。
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会社売却を行う際の成功ポイント

会社売却を行う際は、いくつかのポイントを押さえておくことが大切です。債務の有無に限らず広く活用できるものが多いので、順番にみていきましょう。
【会社売却を行う際の成功ポイント】
- 他社にはない強みを有している
- 魅力的な人材・技術を有している
- 特許や権利を保有している
- 安定した取引先を持っている
- 収益性が高い事業である
- シナジー効果などプラス面をアピールする
- 経験豊富な専門家に相談する
1.他社にはない強みを有している
自社のみの強み・魅力があると、買い手に対して効果的にアピールすることができます。該当分野を欲する買い手からのコンタクトも期待できるため、売却益増加にも繋がる重要ポイントです。
これは債務を抱えている会社においても同様です。会社の強みと債務は切り離して考えられることが多いので、債務を抱えていることが原因で強み・魅力の価値が下げられることはありません。
2.魅力的な人材・技術を有している
近年、数多くの会社が労働力不足に悩まされています。同業種の人材獲得競争も激化の一途を辿っており、会社売却で特定事業に注力してきた人材をまとめて確保しようと考える買い手が多いです。
また、魅力的な技術を持っていることも評価に繋がります。会社売却における買い手は豊富な経営資源を保有していることが多いため、事業に足りない部分を補填しやすいという強みを持っています。
技術を応用した製品やサービスが赤字事業だったとしても、買い手にとっては魅力的な技術として高く評価されることも多いです。
3.特許や権利を保有している
特許は、政府よりその分野での独占権が認められます。事業に利用できる買い手をみつけることができれば、売却益の増加に繋がります。
また、特定の事業においては行政より取得する「許認可」が必要なものがあります。届出のみで許可が降りる簡単なものもあれば、行政機関の厳しい審査が行われ、取得まで時間がかかるものもあります。
これらを一から取得するのは時間がかかるため、既に該当事業を展開している会社や事業を買収しようと考える買い手も多いです。
4.安定した取引先を持っている
顧客・取引先の存在は、買収直後から収益を挙げることが期待されるため、将来的な収益価値として判断されやすいです。
長年の取引実績がある顧客・取引先は、売り手の信用力という点でも大きな強みとなります。事業に対して真摯に取り組んでいることを証明することになるので、買い手に与える印象もよくなります。
債務を抱えている会社の場合は、収益性と信頼性という両面において大きなアピールポイントとなるでしょう。
5.収益性が高い事業である
事業譲渡で多くみられるケースは、収益性の高い事業を売却して、その売却益で赤字・債務を補填するというものです。
収益性が高い事業は買い手からも高い評価を受けられるので、高額の売却益を獲得することができます。事業譲渡における売却益は会社に支払われ、事業資金や債務の弁済にあてることが可能です。
ただし、競業避止義務の存在には注意が必要です。該当事業は一定の期間手掛けることができなくなるので、売却する事業が主たる事業である場合は慎重に検討を重ねる必要があります。
6.シナジー効果などプラス面をアピールする
シナジー効果とは、2つ以上の会社や事業が統合することで単独よりも高い事業価値を生み出すことをいいます。
この事業シナジーは、単純に同業というだけでは最大限に効果を発揮することはできません。販路拡大や倉庫共有による販売シナジー、物流コスト削減や経営資源統合による生産効率化による生産シナジーなど、事業の性質に合わせてさまざまなものがあります。
このような高い効果を得られることを効果的にアピールすることで、買い手の興味を引くことができます。
7.経験豊富な専門家に相談する
ここまで述べた成功ポイントは、会社によっては手軽に実現できるものもありますが、全てを徹底して行うのは大変な労力です。
日々の業務に支障を出さずに効果的に実践するためにも、会社の価値査定や会社売却の専門家に相談することをおすすめします。
赤字・債務超過した会社売却の注意点

赤字・債務超過の会社売却は売却の可能性にばかり注意が行きがちですが、債権者への対応も重要なポイントとなります。
債権者が最も恐れているのは、債務者が会社売却を利用して不正に債務の弁済を逃れようとする行為です。
破格で事業譲渡したり、資産のみの引き継ぎを行って債務だけを残したりと、意図的に返済能力を失わせるという悪質な行為が存在します。
これが横行すると債権者に多大な損失を与えることになってしまうため、債務者が行った詐害行為を裁判所に取り消し請求できる「詐害行為取消権」という権利があります。
この際は、債務者がどのような目的で資産を処分したかという観点である「主観的要件」によって判断されます。
詐欺行為として認められると、会社売却が無効になったり、買い手側に追加の支払いを命じられたりという可能性があります。
詐欺と疑いをかけられないためには

売り手が会社売却を利用して不正に債務を弁済しようとしていると、債権者だけではなく買い手からも敬遠される要因になります。赤字・債務超過の会社売却の際は、以下の2点に注意を払わなければなりません。
【詐欺と疑いをかけられないためには】
- 買い手に自社の現状や買収するリスクを伝える
- きちんと情報を開示する
1.買い手に自社の現状や買収するリスクを伝える
詐害行為取消権によって詐欺行為と認められると、売り手の都合で買い手に多大な負担を与えることになります。
想定される負担としては、会社売却の取り消しによる交渉に掛けた費用や時間の丸損や、会社売却の対価の追加支払いです。また、会社売却の成約後にトラブルが発生した場合は裁判沙汰に発展する恐れもあります。
このような事態を避けるためには、事業譲渡の対象範囲が収益性の高い事業だったとしても、債務を抱えていることを説明した上で会社売却に臨むことが大切です。
2.きちんと情報を開示する
会社売却の最終契約書には、表明保証を明記します。表明保証とは、売り手が買い手に対して法務や財務における一定の事項が真実であることを保証するものです。
これがなされていないと、売り手から提出されている資料の信頼性を確保することができないので、M&A・会社売却において必ず明記します。
この表明保証を行ったうえで、虚偽申告があったと認められると買い手側に会社売却の取り消しや損害賠償請求の権利が与えられます。
会社売却の話が取り消しになるだけではなく、交渉に掛けた費用などを請求されることもありますので、最悪の場合はさらに債務が拡大してしまう恐れもあります。
健全な会社売却を行うためには、売り手が公開する情報は全てにおいて真実である必要があります。
【関連】会社売却の失敗を防ぐための5つのポイントをご紹介!成功する秘訣は?
リスクを抑えた会社売却は可能?

赤字・債務超過の会社が、債権者や買い手から詐欺行為として見られるリスクを抑えるポイントは、以下の3つです。
【リスクを抑えて会社売却する方法】
- 民事再生手続き中にM&Aを行う
- 適切な企業価値評価を行いM&Aを行う
- 会社売却の専門家に相談する
1.民事再生手続き中にM&Aを行う
民事再生とは、民事再生法に基づき裁判所の管理下で会社の再建を図る手続きです。民事再生は以下の3つに分けられます。
- 自力再建型・・・債務や不採算事業の処理によって本来の事業価値を取り戻して自力で再建を図る方法
- スポンサー型・・・スポンサーを探して支援を受けて再建を図る方法
- 清算型・・・事業や事業の一部の売却益を債権者への弁済にあてる方法
今回のケースでは清算型が該当します。裁判所に民事再生手続きの申立をする段階で、事業譲渡先を指定しておきます。プレパッケージ型という呼び方もされています。
裁判所が関与することになるため、債権者や買い手に悪戯に不安を与えることもなく、詐欺行為として見られるリスクを大幅に抑えることが可能です。
しかし、民事再生手続きは法的に倒産処理を開始したことを公にする行為でもあります。これまで赤字・債務超過が表面上に現れていなかった会社の場合、社会的信用を落としてしまう恐れがある点に注意が必要です。
2.適切な企業価値評価を行いM&Aを行う
企業価値評価は、会社売却の交渉における土台となるとても重要なプロセスです。赤字・債務超過の会社売却においても重要であり、適正な価値による売却ではないと判断されると、詐欺行為としてみられる原因にもなります。
というのも、詐害行為取消権の判断基準は、譲渡する事業の価値が相当の評価の基で決定されているかどうかが焦点となるためです。債務を抱える会社の場合、リスク対策のためにも企業価値評価が欠かせません。
企業価値評価は複数の手法が用意されており、会社の財務状況や事業の性質に合わせた手法を選択することが重要です。
さらに客観性と信頼性のある価値が求められることからも、財務や会計の専門家である公認会計士や税理士に算出してもらうのが一般的です。
3.会社売却の専門家に相談する
民事再生手続きや企業価値評価は自社内で進めることも可能ですが、どうしても専門性を欠いてしまうことから、最大限の効果を発揮しづらい問題があります。
赤字・債務超過の会社が、詐欺行為としてみられるリスクを抑えながら会社売却をするためには、会社売却の専門家に相談することをおすすめします。
会社売却の専門家は多数のM&A・会社売却を経験しているため、赤字・債務超過の会社売却においても適切な対応を取ることができます。
会社売却の際におすすめの相談先

会社売却は会社や従業員の行末を決定する重要な取引となりますので、健全な債務状況の会社であっても慎重に進めなければならないものです。
ましてや赤字・債務超過の会社売却となると、買い手に対する効果的なアピールや詐欺行為と見られるリスクへの対処など、注意するべきポイントが多くなります。これらのポイントを押さえながら会社売却する際は、M&A総合研究所にご相談ください。
M&A総合研究所は、M&A・会社売却の仲介を専門的に請け負っているM&A仲介会社です。様々な経営課題を抱える会社の会社売却に携わっており、赤字・債務超過の会社売却においても多数の仲介実績を持っています。
会社売却の手続きや仲介に直接携わるメンバーは、M&Aの経験豊富なアドバイザー・公認会計士・弁護士の3名です。公認会計士による企業価値評価や弁護士による法務リスクへの対応も万全となっています。
料金体系は完全成功報酬制です。会社売却が成約するまで一切の手数料が発生しませんので、安心してご利用いただけます。無料相談は24時間お受けしていますので、会社売却の際はお気軽にご連絡ください。
まとめ

本記事では、赤字・債務超過の会社売却は可能であることを解説しました。しかし、通常の会社売却と比べると注意しなければならないポイントが増えることも事実であり、単純に債務だけを処理しようとしても、理想的な買い手はみつからない可能性が高くなります。
売却益の最大化や詐欺行為のリスクを抑える会社売却を行うには、適切な対応を取らなければなりません。その際は、必要に応じて会社売却の専門家に相談することをおすすめします。
【赤字・債務超過した会社の売却方法】
- 株式譲渡による会社売却
- 事業譲渡による会社売却
- その他の手法による会社売却
【会社売却を行う際の成功ポイント】
- 他社にはない強みを有している
- 魅力的な人材・技術を有している
- 特許や権利を保有している
- 安定した取引先を持っている
- 収益性が高い事業である
- シナジー効果などプラス面をアピールする
- 経験豊富な専門家に相談する
【詐欺と疑いをかけられないためには】
- 買い手に自社の現状や買収するリスクを伝える
- きちんと情報を開示する
【リスクを抑えて会社売却する方法】
- 民事再生手続き中にM&Aを行う
- 適切な企業価値評価を行いM&Aを行う
- 会社売却の専門家に相談する