
会社譲渡の際、譲渡所得が発生する場合は税金が課せられます。所得に対して税金がかかるのは当然ですが、大変なのは会社譲渡に関する税金の種類が多岐に渡ることです。
最終的に自分が手にする正確な金額を知るためにも、会社譲渡の税金について正しく理解しておく必要があります。
目次
会社譲渡にかかる税金とは

会社譲渡は、会社の経営権や事業を他者に譲渡する広義的な意味の言葉です。会社譲渡では主に株式の売却による株式譲渡が利用されています。
会社譲渡をすると、譲受側より取得対価(会社譲渡価格)が支払われます。この取得対価が、株式の取得費用と必要経費の合計額を上回ると譲渡所得が発生し、会社譲渡の所得に対して税金が課せられます。
税金を考慮していないと、会社譲渡後の資金運用に支障が出る可能性もあるので、正しく把握しておく必要があります。
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会社譲渡にかかる税金の種類

会社譲渡にかかる税金の種類は多岐に渡ります。ここでは、会社譲渡で主に利用されている株式譲渡と事業譲渡にかかる税金を解説します。
株式譲渡にかかる税金
株式の売却で得た取得を「株式に係る譲渡所得」といいます。株式に係る譲渡所得が発生すると「所得税(15%)」と「住民税(5%)」「復興特別所得税(0.315%)」の3つの税金が課せられます。
- 株式に係る譲渡所得=株式譲渡価格-(株式取得費用+株式譲渡費用)
【株式譲渡にかかる税金】
- 所得税
- 住民税
- 復興特別所得税
所得税
所得税は、全ての所得に対してかかる税金です。売却する株主が個人である場合に課せられます。
通常の所得税は、1年の全ての所得に対して課せられる「累進課税」ですが、「株式に係る譲渡所得」にかかる所得税は所得ごとに課せられる「分離課税」となっています。
株式譲渡が成立し、譲渡所得が発生した時点で15%の税金を納める義務が発生します。また、1年を通して赤字が出ていたとしても「株式に係る譲渡所得」の黒字を相殺することはできません。
- 所得税=株式に係る譲渡所得×15%
住民税
住民税も売却する株主が個人である場合に課せられる税金です。
所得税と同様に「株式に係る譲渡所得」では「分離課税」となり、所得に対して5%の住民税が発生します。
- 住民税=株式に係る譲渡所得×5%
復興特別所得税
復興特別所得税は、納税義務のある人全てが対象となる税金です。2011年に発生した東日本大震災の復興資金にあてるために設けらました。
- 復興特別所得税=株式に係る譲渡所得×0.315%
事業譲渡にかかわる税金
事業譲渡は会社の事業あるいは事業の一部を切り離して譲渡・売却する手法です。株式譲渡とは違い、法人に譲渡所得が発生するため法人に対して税金が課せられます。事業譲渡の際に発生する税金は「法人税」と「消費税」の2つがあります。
【事業譲渡にかかわる税金】
- 法人税
- 消費税
法人税
法人税は、法人が事業を通して得た利益に対してかかる税金です。法人税・法人事業税・法人住民税などを合わせると約30~40%になります。
譲渡・売却した事業の譲渡価格から事業取得費用と事業譲渡費用を差し引き、譲渡所得が発生した場合に法人税が課せられます。
事業取得費用として扱われる費用は、求め方でも結果が変わります。譲渡所得に大きく関わりますので専門家に相談することをおすすめします。
- 法人税=譲渡所得×約30~40%(法人税・法人事業税・法人住民税)
消費税
消費税は売上に対して課せられる税金です。株式の売買は非課税対象ですが、事業譲渡の場合は事業を売却するため、課税対象となり消費税10%(2020年2月現在)が課せられます。
ただし、譲渡する事業によっては非課税対象となることがあります。土地や有価証券などは消費税が課せられませんので、課税対象の事業と非課税対象の事業を分別しておきましょう。
- 消費税=課税事業・資産×10%
会社譲渡の際に税金はいつ支払うか?

会社譲渡による譲渡所得に対しる税金を納めるタイミングは、株式譲渡と事業譲渡の場合で変わります。
タイミングが変わるのは、株式譲渡は個人、事業譲渡は法人に税金が課せられるためです。ここでは、会社譲渡後に税金を納めるタイミングをみていきましょう。
株式譲渡の場合
株式譲渡の場合は株式売却益が個人の所得になるため、一般的な所得と同様に確定申告をします。
株式譲渡が成立して譲渡所得が発生した翌年に確定申告を行い、税金を納める必要があります。2019年内に発生しているのなら、2020年2月17日(月)~3月16日(月)までに確定申告します。
実際に納付するタイミングは、所得税と住民税で異なります。所得税は確定申告の最終日までに一括払い、住民税は6月末までに一括もしくは4期分割払いを選択します。
確定申告のタイミング | 納付タイミング | |
所得税 | 翌年2月中旬~3月中旬 | 確定申告の最終日まで |
住民税 | 翌年2月中旬~3月中旬 | 翌年6月~翌々年5月まで |
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事業譲渡の場合
事業譲渡の譲渡所得は法人に入るため、譲渡所得に対する法人税と消費税が法人に課せられます。
事業譲渡の際に発生する法人税は管轄の税務署に、地方税である法人事業税は県税事務所等に提出します。いずれも決算月から2ヶ月以内に確定申告します。
税金を支払うタイミングも同様です。決算月から2ヶ月以内が納付期限と定められています。決算月は自由に決められるため、税金を支払うタイミングは法人によって異なります。
例えば、事業年度を4月1日~翌年3月31日としている場合は、決算3月、納付期限は2ヶ月後の5月末になります。
確定申告のタイミング | 納付タイミング | |
法人税 | 決算月から2ヶ月以内 | 決算月から2ヶ月以内 |
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会社譲渡にかかる税金の計算方法

会社譲渡にかかる税金は譲渡所得を算出してから一定の税率を掛けて計算します。下記の設例をもとに、会社譲渡の譲渡所得にかかる税金の計算方法をみていきましょう。
譲渡価格 | 5億5000万円 |
取得費用 | 3000万円 |
譲渡費用(仲介手数料等) | 4000万円 |
1.譲渡所得を算出
まずは、会社譲渡による譲渡所得を算出します。譲渡価格から要した費用を差し引いた額が、譲渡所得になり、この段階では個人と法人における違いはありません。
- 譲渡所得=譲渡価格-(取得費用+譲渡費用)
上記の式に設例をあてはめると「5億5000万円-(3000万円+4000万円)」となり、会社譲渡の譲渡価格は4億8000万円です。
2.税金を算出
続いて、会社譲渡の譲渡所得に税率を掛けて税金を算出します。個人と法人では、税金の種類と税率が異なるのでそれぞれみていきましょう。
個人
個人の場合、譲渡所得に対して「所得税(15%)」「住民税(5%)」「復興特別所得税(0.315%)」の3種類が課せられます。
- 所得税=株式に係る譲渡所得×15%
- 住民税=株式に係る譲渡所得×5%
- 復興特別所得税=株式に係る譲渡所得×0.315%
所得税 | 7200万円 |
住民税 | 2400万円 |
復興特別所得税 | 151万2000円 |
合計 | 9751万2000円 |
法人
法人の場合、譲渡所得に対して「法人税(約30~40%)」、課税対象の事業・資産に対して「消費税(10%)」が課せられます。
課税対象とは「建物・のれん代・棚卸資産」などが含まれ、消費税が課せられます。今回は1億円相当の課税対象がある前提で計算します。
- 法人税=譲渡価格×約30~40%
- 消費税=課税事業・資産×10%
法人税(30%で計算) | 1億4400万円 |
消費税 | 1000万円 |
合計 | 1億5400万円 |
会社譲渡の節税対策

会社譲渡によって譲渡所得が発生すると納税義務が発生します。会社譲渡の規模によっては、数千万単位の高額納税となることも少なくありません。
これまで育ててきた会社なのに税金を取られてしまうのは悔しい気持ちもありますが、会社譲渡の必要性が生じているならやむを得ません。
そこで考えたいのは、会社譲渡時に納める税金を少しでも抑えるための節税対策です。やりすぎると脱税となり罰則を受けてしまうので、常識を逸脱していない範囲で会社譲渡の節税テクニックを使っていきましょう。
【会社譲渡の節税対策】
- 役員退職慰労金による節税
- 第三者割当増資による節税
役員退職慰労金による節税
株式譲渡の際に経営者や役員が受け取る役員退職金を使った節税テクニックです。退職金はほかの所得と比較すると税制面で優遇処置が取られており、大きく影響しているのは勤続年数による退職所得控除額の存在です。
退職所得から退職所得控除額を差し引いた額に対して法人税や住民税がかかるので、譲渡価格の一部を役員退職金として受け取ることで最終的な手取り額が増す可能性があります。
しかし、株式譲渡の譲渡所得と同様に所得税と住民税が課せられますので、退職金を大きく設定しすぎると支払う税金が多くなってしまうことがあります。
退職金を活用した節税は退職金の設定額が重要なので、会社譲渡の仲介を依頼している専門家に相談してみるとよいでしょう。
第三者割当増資による節税
第三者割当増資とは、既存株主とは関係なく第三者に新株発行権利を与える手法です。この手法であれば、税金を掛けずに持分比率を下げることが可能となり、会社の経営権を第三者に引き継げます。
しかし、経営者が所有する株式を処分するわけではありません。会社譲渡における譲受側の目的は経営権の100%の確保としていることが多いです。
どれだけ新株を発行しようとも、譲受側が株式保有率100%を獲得することはないため、第三者割当増資を手法に選択することが承諾されないこともある点に注意が必要です。
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会社譲渡での債務・債権の扱い

会社譲渡するうえでは、債務・債権の扱いについても把握しておく必要があります。ここでは、株式譲渡と事業譲渡における扱いの違いをみていきましょう。
株式譲渡の場合
株式譲渡は会社の経営権を移転させる手法です。会社はそのままで経営権のみが移るので、手続きが極めて簡便な特徴があります。
株主総会の承認や債権者への担保提供なども行わず実行することが可能ですが、債務・債権を含んだ全ての資産は自動的に譲受側が引き継ぎます。
譲渡会社が多大な債務を抱えている場合、譲受会社にとって大きな負担となることは明白です。そのため、成約前のデューデリジェンスによって簿外債務を含む全ての債務を洗い出し、譲受価格に加味しています。
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事業譲渡の場合
事業譲渡は、会社の事業あるいは事業の一部を切り離して譲渡・売却する手法です。譲渡範囲と関係のない債務・債権は引き継ぎません。
事業譲渡の売却益は会社が獲得しますが、使い方は経営者の判断に委ねられます。債務を抱えている場合、借入金の返済にあてて連帯保証債務を外す使い方が一般的です。
ただし、譲受会社が譲渡会社の商号を利用する場合や、債権譲渡契約や債権譲渡契約を交わす場合は、債務・債権を引き継ぎすることも可能です。
会社譲渡を行う上で注意したいポイント

会社譲渡を行う際の注意ポイントがあります。税制面に大きな影響を与えるものもありますので確認しておきましょう。
【会社譲渡を行う上で注意したいポイント】
- のれん代に注意
- 棚卸し資産に注意
- 消費税率の変動に注意
- 税金による譲渡方法選び
- 専門家に相談する
1.のれん代に注意
会社譲渡を行う上で注意したいポイント1つ目は、のれん代です。のれんとは、会社譲渡の際の取得価格と譲渡会社の時価純資産価額の差額をさします。
会社譲渡の際は、無形資産も加味して企業価値評価を行います。この無形資産が高く評価されればされるほど、会社譲渡の価格が高くなり計上されるのれんも高まります。
のれんも課税対象となるため想定以上に税金を納めることになり、会社譲渡後の決算に影響を与えることも少なくありません。
2.棚卸し資産に注意
会社譲渡を行う上で注意したいポイント2つ目は、棚卸し資産です。棚卸し資産は課税資産に該当するため、消費税の課税対象になります。
棚卸し資産を少なく申告することで脱税することもできてしまうので税務調査で目をつけられやすいポイントでもあります。
注意したいのは、棚卸し資産は倉庫にある在庫品だけではなく、未着品や運搬中のものも含まれるという点です。
これを知らずに会社譲渡の譲渡所得の確定申告を行い、後の税務調査によって申告漏れが発覚した場合は脱税となり罰則を受けてしまいます。会社譲渡の際は、事前に自社の棚卸し資産を正確に把握しておきましょう。
3.消費税率の変動に注意
会社譲渡を行う上で注意したいポイント3つ目は、消費税率の変動です。日本の消費税率は着々と上がってきており、2019年10月1日には消費税10%まで引き上げられました。
現在の安倍政権からは「今後10年は増税の必要ない」という見解が出されていますが、IMF(国際通貨基金)からは2030年までに15%、2050年までに20%まで引き上げる必要があるとの声明も出されました。
日常生活に大きな支障が出ることは確実ですが、会社譲渡の譲渡価格への影響はさらに大きくなります。少しタイミングがずれるだけで、数千万円という単位の税金を多く納めることになる可能性もあります。
4.税金による譲渡方法選び
会社譲渡を行う上で注意したいポイント4つ目は、税金による譲渡方法選びです。会社譲渡の手法によって納める税金の種類や税率が変わります。
株式譲渡は約20%(所得税・住民税・復興特別所得税)ですが、事業譲渡は30~40%(法人税)もかかります。
また、事業譲渡の場合は譲渡所得が会社に入る点にも注意です。会社の事業資金とする場合は問題ないのですが、経営者が受け取る場合は会社から経営者個人に所得を移す段階で、さらに税金がかかってしまいます。
法人税と所得税・住民税の両方を納めるとだいぶ目減りしてしまいます。譲渡所得の使い道も加味したうえで、会社譲渡の方法を選びましょう。
5.専門家に相談する
会社譲渡を行う上で注意したいポイント5つ目は、専門家への相談です。金銭のやり取りには必ず税制面の問題が付きまといます。特に会社譲渡の場合は高額となるケースが多いので、しっかりと節税対策が必要です。
会社譲渡の際にM&A仲介会社に依頼している場合、節税対策も織り込んで進めてもらえます。会社譲渡における相談者の利益を考えて行動してくれるので安心して任せられます。
会社譲渡の際におすすめの相談先

会社譲渡の際は、M&Aの専門家に相談することをおすすめします。会社譲渡は税務関連の処理と同時に取引先の選定・交渉、各種契約書の締結などの会社譲渡に必要な様々な手続きを並行して行わなければなりません。
これらの手続きを複数の機関に別々に依頼すると、意思疎通ができずに不備が生じたり、連携できずに進行に遅れが出たりといった不都合が考えられます。
M&A総合研究所では、会社譲渡の必要な手続きの一貫したサポートが可能です。M&Aの知識と経験が豊富な公認会計士と弁護士が専属在籍していますので、税務・会計処理についても安心してお任せいただけます。
さまざまな企業の会計業務を担当してきた公認会計士は節税についても抜かりありません。経験・ノウハウをフル活用して、最終的な手取り額を少しでも高めます。無料相談は24時間お受けしています。会社譲渡の際は、M&A総合研究所にご相談ください。
まとめ

会社譲渡の際に発生する税金は手法を変えるだけで数百万円変わることもあります。その後の資金運用を計画的に行うためにも、税金の種類や注意ポイントを再度確認しておきましょう。
【株式譲渡にかかる税金】
- 所得税
- 住民税
- 復興特別所得税
【事業譲渡にかかわる税金】
- 法人税
- 消費税
【会社譲渡の節税対策】
- 役員退職慰労金による節税
- 第三者割当増資による節税
【会社譲渡を行う上で注意したいポイント】
- のれん代に注意
- 棚卸し資産に注意
- 消費税率の変動に注意
- 税金による譲渡方法選び
- 専門家に相談する
株式譲渡の方が節税効果は高いものでした。しかし、そもそもの目的が会社の経営権の移転ではなく事業の切り離しの場合もあります。
このような理由から、会社譲渡は本来の目的を達成した上で税制面にも気をつけるということが求められます。最終的な手取り額を少しでも高くするためにもM&Aの専門家に相談することをおすすめします。
M&A総合研究所は、長年会計業務に携わっている公認会計士が在籍しています。会社譲渡に関わる税務・会計処理を節税テクニックを取り入れつつ代行いたします。
また、会社譲渡の仲介手数料は完全成功報酬制を採用しています。最終的にかかる費用が明瞭化されているので、初期段階から税金を差し引いた純粋な手取り額を試算可能です。
会社譲渡に関するご相談は24時間お受けしています。会社譲渡の際は、M&A総合研究所にご相談ください。