
近年、M&A投資枠を活用する企業が増えています。企業の事業資金をM&A投資枠として確保しておく理由には、どのようなものがあるのでしょうか。
本記事では、M&A投資枠の目的や投資回収、ハンズオフM&Aについてわかりやすく解説します。
目次
M&A投資枠とは

M&A投資枠とは、企業が将来のM&Aに備えて用意しておく資金枠のことです。主に買収を検討する企業が設けているもので、経営基盤に支障が出ない範囲で設定するケースが多くなっています。
M&Aは、大企業の企業再編や中小企業の経営課題の解決策として、利用されている経営戦略です。その活用範囲は幅広く、国内外問わずM&A成約件数は伸び続ける傾向にあります。
世界的にもM&A需要が伸びるなか、中期経営計画の内容にM&A投資枠を盛り込む企業が増えています。ここでは、強気の買収姿勢をみせる企業を中心に広がりつつあるM&A投資枠について解説します。
M&A投資枠の目的
企業は大小あれども限られた資金で事業を手掛ける必要があります。そのなかでM&A投資枠として資金の積立を行う目的は、「資金の備え」と「積極的なM&A姿勢のアピール」です。
M&Aは買収費用や専門家へ支払う仲介手数料など、高額な費用がかかります。M&A投資枠として資金の積立を行いM&Aに使える費用を明確にしておくと、事前の計画的なプラン立てが可能になります。
M&A姿勢のアピールについては、余剰金の使い道を株主に対して示す意味合いが強いです。近年はM&Aを活用した経営戦略が広く浸透してきたこともあり、株主や投資家のM&Aに対する関心が非常に高くなっています。
正当性や将来性のあるM&Aであれば株価に好影響を与えることが想定されるため、余剰金を配当金として受け取るよりもM&A投資枠に使った方ほうが、結果的に得になることを分かりやすく伝えられます。
M&A投資枠を明示する理由
M&A投資枠を明示する理由は、M&Aに対する備えです。早期の準備を進めておくことでM&Aの成功率を高める効果を期待しています。
社内のM&A専門チームを設立することにより、人材を含めたM&Aに関するリソースを集中させることができます。
いざM&Aを実施する際に専門家に相談する時も、社内チームと専門家の連携によって円滑にM&Aを進めることが可能です。
また、M&Aの専門チーム設立は社外にもたらす効果もあります。M&Aの買収に積極的なことを外部にアピールすることで、売却を検討する企業やM&Aの専門家からのコンタクトにも期待できます。実際に、投資枠を設けている企業は思わぬ優良案件を掴むことも珍しくないようです。
M&A投資枠を検討の際のおすすめの相談先
M&Aの成否はどれだけ入念な準備ができるかにかかっています。その点において、M&A投資枠はあらゆる面からM&Aに対する備えができる有効なM&A戦略です。
しかし、明確な買収先が判明していない段階で、どの程度の資金を投じるべきなのかは判断しづらい問題もあります。
M&A投資枠の資金バランスを見誤ると日常的な業務に支障が出る恐れもあるので、M&Aの専門家に相談することをおすすめします。
M&A投資枠をご検討の際は、M&A総合研究所にご相談ください。M&A総合研究所は、公認会計士を始めとした高い専門性を持つ専門家が多数在籍しています。
M&A経験の豊富な専門家によって、M&Aに必要な資金の見通しを含めた入念なM&A戦略策定を行い、万全の体制で買収に臨めるよう準備を進めます。
無料相談は24時間お受けしていますので、M&A投資枠を検討の際は、ぜひM&A総合研究所にご連絡ください。
M&Aの投資回収とは

M&Aの投資回収とは、買収に要したコスト回収のことです。ここでいうコストとは、全体の買収費用のことではなく、残存価値に含まれない費用を指します。
主に、営業権(のれん代)と専門家に支払う手数料が挙げられます。土地や建物のような有形固定資産は残存価値として残るものですが、営業権や手数料は取得費用として支出されるものの、残存価値には含まれません。
これらの費用については買収段階で丸々赤字という考え方であり、「回収に要する期間」を基準に買収の最終判断をする方法があります。
投資回収に5年以上かかるようであれば、ほかの用途に資金を回したほうが効果的と判断されたりと、お金の時間価値を重視した投資判断基準になっています。
【関連】のれんとは?意味や会計処理方法について具体例を挙げながら徹底解説
ハンズオフM&A投資とは

ハンズオフM&A投資とは、企業買収したものの経営には口出しせずに買収先の経営方針に任せる投資です。経営者というよりはスポンサーの意味合いが強くなっています。
簡単にいえば、既に買収先の事業体制が整っている場合、投資ファンドが経営に介入するよりも買収先に任せた方が効率的という考えです。
投資ファンドはあくまでもスポンサーという立場を徹底しており、買収先からの反発を受けにくいメリットがあります。
デメリットとしては急激な改革が望めないことです。強引に経営方針を変えさせるものではないので、無理して経営統合を急がない時に利用される手法になっています。
ハンズオンとの違い
ハンズオンは、積極的に買収先の経営に関与する投資です。投資ファンドによる関与の形はさまざまですが、一般的には担当者・役員を派遣して内部から改革を進める形が多くなっています。
新たな事業に対する意欲はあるものの、技術や知識が伴っていない企業に対してハンズオンM&A投資が行われる傾向にあります。経営状態が悪化する原因を外部による支援で解消することで、スピーディーな改革を目指します。
その一方、人事面でのリスクも存在します。投資ファンドが派遣した担当者が、事業に関する知識がなかったり改革に関する具体的なプラン提案がみられなかったりする場合、買収先の従業員との対立が深まってしまい改革どころではなくなる可能性もあります。
投資ファンドが派遣する担当者は、リーダーシップが発揮できるかつ事業に精通している人材でなければ、スピーディーな改革は行なえません。
事例から見るM&A投資額

M&A市場は国内外で活性化しており、ファンドがM&Aに投じる費用も年々高まる傾向にあります。この1年だけでも、M&A投資額が1000億円を超えるM&A案件が20件以上も成約しています。
【近年の高額M&A事例】
- 昭和電工による日立化成の買収
- ソフトバンクによるヤフーの買収
- 富士フィルムによる日立製作所の事業買収
1.昭和電工による日立化成の買収
2020年4月21日、昭和電工は日立化成に対するTOB(公開買付)が完了したことを公表しました。買収に要した費用は約9600億円となっており、昭和電工の時価総額(約3300億円)の約3倍です。
買収費用の調達先は、みずほ銀行や日本政策投資銀行からの融資です。ほぼ全額を借入でまかなっており、昭和電工にとって社運をかけた一手となっています。
2.ソフトバンクによるヤフーの買収
2019年5月8日、ソフトバンクはヤフーの株式を取得して連結子会社化することを公表しました。第三者割当増資やTOBを併用した手法で、買収費用は4565億円です。
双方の経営資源を統合することで事業推進力はますます高まるとみられており、ソフトバンクにとってはヤフーが保有する非通信事業、ヤフーからすればソフトバンクの2000万以上の顧客基盤を活用できるメリットがあります。
3.富士フィルムによる日立製作所の事業買収
2019年12月18日、富士フィルムは日立製作所の画像診断機器事業を買収することを公表しました。買収費用は1790億円で2020年7月買収完了の見通しです。
画像診断は疾患による形態上の変化を画像化させるという技術で、MRIシステム・CTシステムなどの高精度なシステムを製品・サービスとして提供しています。
富士フィルムは、画像診断機器事業と自社の画像処理技術・AI技術を施すことで医療機器の質向上を目指すとしています。
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まとめ

M&Aという言葉に攻撃的なイメージを持たれる方もいるかもしれませんが、実際は企業を成長させていくうえで効果的な経営戦略として重宝されています。
売却側・買収側の双方が大きく成長することができるものです。1000億円を超える高額事例も多数見受けられるようになっており、M&A市場は今後も活性化していく見方がされています。
M&A投資の手法は多岐に渡ります。適切な手法を導き出すためにもM&A投資を検討の際は、M&Aの専門家の知見を頼ることをおすすめします。
【M&Aの投資まとめ】
- M&A投資枠とは将来のM&Aに対する備え
- M&A投資回収とは買収に要したコストの回収
- ハンズオフとは買収先の経営方針に任せる投資手法
- ハンズオンとは経営に積極的に介入する投資手法