
近年はM&Aが普及してきているとはいうものの、手順が複雑なために躊躇している経営者の方も多いのではないでしょうか。
本記事では、M&Aの手順を準備段階からクロージングまで詳しく解説するとともに、円滑に手順を進めるためのポイントを紹介します。
目次
M&Aの現状と動向

近年は、中小企業M&Aの普及によりM&Aが活発になっていますが、その現状や動向は業界や地域によっても変わってきます。
M&Aの手続きをスムーズに進め、成約して成功させるためには、自社の業種や地域におけるM&Aの現状と動向を把握しておくことが大切です。この章では、そもそもM&Aとは何かという基本的な内容や、M&Aの現状と動向の解説します。
M&Aとは
会社はオフィスや店舗、設備や工場などの事業資産を持っており、さらに株式を発行して株主がそれを保有しています。
これらの事業資産は売却したり買い取ったりすることができ、株式を売買することもできます。
このように、株式や事業資産を売買することで会社や事業を売買する取引をM&A(エムアンドエー)といいます。
M&Aにはいくつかの手法があり、例えば、株式を売って経営権を渡すことを株式譲渡、事業資産を売買することを事業譲渡と呼びます。
それ以外にも、株式交換や株式移転、会社合併や会社分割といった手法もあり、さらに資本提携や業務提携も広義のM&Aとして含めることがあります。
【関連】M&Aとは?成功させるための基礎知識を世界一分かりやすく解説!
M&Aの現状と動向
M&Aに関するデータベースを作成しているレコフデータによると、2019年のM&A件数は約4,000件となっています。
M&A件数は90年代まではほぼ1,000件以下でしたが、2000年代に入って急激に増えて、2006年に約2,700件に到達しました。
その後リーマンショックが起きた2008年から件数が減少し、2011年には約1,700件にまで減少しましたが、その後はまた件数が伸びて2019年には4,000件を突破しています。
M&Aの手順【準備・具体的な流れ・プロセス】

M&Aを成功させるには、その手順を把握して、全体的な流れをつかんでおく必要があります。しかし、ほとんどの経営者の方にとってM&Aは初めてのことなので、手順がつかみにくかったりよく分からなかったりすることも多いのではないでしょうか。
M&Aの手順は事例によって多少変わったり、手順の順番が前後することもあります。しかし、大まかな流れというのは大体変わらないので、それを把握しておけばいざ自分がM&Aを行った時にトラブルになることが少なくなります。
M&Aの手順は非常に長く複雑ですが、本格的な交渉に入る前の準備段階の手順と、相手先の選定・交渉から始まる、本格的なM&A交渉の手順に分けて考えると理解しやすくなります。
この章では、準備段階の手順とM&A先選定以後の手順に分けて、具体的な手順を解説していきます。
M&Aの手順【準備】
まずは、準備段階のM&A手順について解説します。準備段階には決まった手順というものがなく、うまく進めていくのが難しい段階でもあります。しかし、準備不足のためにM&Aが失敗する事例は多々あるので、しっかり準備を行うことが大切です。
M&Aの一般的な準備手順としては、例えば以下のようなプロセスが考えられます。もちろん、これ以外の準備をしてはいけないというわけではなく、M&Aの専門家と相談しつつさらに準備すべきことがあれば実行しておいたほうがよいでしょう。
【M&Aの手順【準備】】
- M&A戦略・目的の確認
- M&Aの専門家に相談・契約
- M&A手法の決定
- 業界調査
- 提案資料の作成
1.M&A戦略・目的の確認
M&Aはシナジーの獲得や事業承継など、何らかの目的を達成するための手段です。したがって、M&Aの準備段階で目的を明確にしておくことは、今後の手順をスムーズに進めるためにも大切です。
目的が違えばベストな戦略も変わってくるので、まずはそもそも何のためにM&Aを行おうとしているのかを明確にしておきましょう。
M&Aの目的は、事業拡大やシナジー効果といった積極的な理由でなくても大丈夫です。歳を取って体力・気力が落ちたので引退したいとか、今の事業に飽きてしまって他の事業を始めたいといった理由で、M&Aを行っても全く問題ありません。
2.M&Aの専門家に相談・契約
M&Aの目的と戦略が固まったら、次はM&Aの専門家に相談し、アドバイザリー契約を締結します。
M&A自体は専門家を通さずに経営者自身で行うことも可能であり、それが法律に違反するわけでもありません。
実際、経営者の方が自分でM&Aを行える「マッチングサイト」というサービスもあり、年々人気が高まっています。
しかし、M&Aというのは手順が複雑で専門知識と経験を要するので、売買先を探すためにはネットワークが必要です。
やはりM&Aを行う時は、M&A仲介会社など専門業者に相談したほうが効率よく進めることができます。M&A仲介会社がよく分からないという場合は、メインバンクや顧問税理士などに相談してみるという手段もあります。
3.M&A手法の決定
M&A専門家への相談と契約が完了したら、その専門家の指導のもと、どの手法でM&Aを行うか検討していきます。
M&Aの手法には以下のように多くの種類がありますが、このうち中小企業のM&Aでは、ほとんどの場合、株式譲渡と事業譲渡のどちらかが使われます。
株式交換・株式移転・会社合併・会社分割は組織再編手法なので、大企業以外ではあまり行われることはありません。
資本提携・業務提携・資本業務提携は会社を買収するわけではないので、厳密な意味でのM&Aではありませんが、お互いの企業が協力して事業を進めていくという意味で、広義のM&Aの一種に含めることがあります。
【M&Aの手法一覧】
- 株式譲渡
- 事業譲渡
- 株式交換
- 株式移転
- 会社合併
- 会社分割
- 資本提携
- 業務提携
- 資本業務提携
【関連】M&Aのスキーム(種類)一覧!特徴、メリット・デメリットを解説!
4.業界調査
M&Aは会社と会社を結び付けてシナジー効果を獲得していくので、相手企業が営んでいる業界についてよく知っておく必要があります。
特に業界動向の移り変わりが激しく、業界内における会社の強みを把握するのが重要な場合は、慎重に調査を行ったうえで、高いシナジー効果を得られる相手をみつけるための準備を整えておく必要があります。
5.提案資料の作成
M&Aでは、相手企業に自社がどのような会社か理解してもらう必要があるので、分かりやすい資料を作成しておくことが大切です。
交渉は基本的に経営者同士の面談で行うので、たとえ自社が強みを持っていたとしても伝わらなければM&Aを成功させることはできません。逆に、分かりやすくしっかりした資料を提示すれば、相手に興味を持ってもらいやすくなります。
相手企業にみてもらうための資料として重要なのが「企業概要書」です。相手企業は企業概要書をみて自社と交渉を行うかを判断するので、M&A専門家のサポートのもとで良質な資料を作成しておく必要があります。
企業概要書以外にも、顧客名簿や従業員名簿など、自社を把握するために参考となる資料はできるだけ作成しておくほうがよいでしょう。
M&Aの手順【具体的な流れ・プロセス】
準備段階の手順が完了したら、次はM&A先の選定を始めとする、具体的な手順・プロセスに移ります。M&A先選定後の手順はある程度決まっており、おおむね以下のように進行していきます。
【M&Aの手順【具体的な流れ・プロセス】】
- M&A先の選定・交渉
- トップ同士の面談
- 基本合意書の締結
- デューデリジェンスの締結
- 最終条件交渉
- 最終契約書の締結
- クロージング
- 統合プロセスの実施
1.M&A先の選定・交渉
M&Aの準備が完了したら、次は具体的なM&Aの手順として、まずはM&A先の選定と交渉に入ります。
経営者はどのような会社をM&A先にしたいか希望を伝え、専門家はそれを踏まえて保有しているネットワークからM&A先候補を選別します。
専門家は最終的に「ショートリスト」という数社程度に絞った候補リストを作成するので、そのなかから実際に交渉するM&A先を選んでいきます。
2.トップ同士の面談
M&A先を選定して交渉したい会社が決まったら、次はお互いの経営者同士が実際に顔を合わせる、トップ同士の面談へと入ります。
トップ面談では、お互いの会社の経営理念や経営方針の確認、疑問点の解決を始め、相手の経営者の人柄を見て、相性が合うか判断したりします。
売却価額などの具体的な条件交渉はいきなり始めるのではなく、ある程度打ち解けてから徐々に行う方がよいでしょう。
トップ面談の手順を成功させるために、事前準備を行っておくことも有効です。例えば、相手企業の情報をあらかじめ調べておいたり、質問したい項目をリスト化しておくなどすれば、面談の手順をスムーズに進められます。
3.基本合意書の締結
トップ面談の手順がうまくいき基本的な合意内容が固まったら、その内容を基本合意書という書面にして締結します。
基本合意書はあくまで「基本の」合意書ということで、最終的な決定ではありません。この後行うデューデリジェンスの結果も加味して、最終的な条件を詰めていくことになります。
基本合意書で重要なのは、デューデリジェンスへの協力と独占交渉権です。売り手側は、デューデリジェンスによる自社の調査に全面的に協力することに同意する必要があります。
独占交渉権とは、今後は売り手側がほかの買い手候補と同時に交渉せず、一社だけと交渉していくことを約束するものです。
買い手側がこの後実施するデューデリジェンスは費用がかかるので、基本合意の時点で独占交渉権を得ておくことは必須になります。
4.デューデリジェンスの締結
基本合意書を締結した時点では、まだお互いの会社のことを資料や面談でしか把握していないので、最終契約を締結するためには相手企業について詳細に調べておく必要があります。
相手企業について詳細に調査する手順が「デューデリジェンス」です。デューデリジェンスは一般的に、買い手側企業が売り手側企業を調査します。
デューデリジェンスは一般的に買い手側が行うものですが、売り手側が自ら自社のデューデリジェンスを行うこともあります。
これは「セルサイド・デューデリジェンス」と呼ばれ、対して買い手側が行うデューデリジェンスを「バイサイド・デューデリジェンス」と呼びます。単にデューデリジェンスという場合、普通はバイサイド・デューデリジェンスを指します。
セルサイド・デューデリジェンスは、必ず行うべき手順というわけではありませんが、自社を調べておくことで、バイサイド・デューデリジェンスの手順をより円滑に進めることができます。
【関連】M&Aのデューデリジェンス(DD)を解説【目的/種類/手続き/注意点】
5.最終条件交渉
デューデリジェンスの手続きが完了したら、次は最終契約の締結に向けた最終条件交渉の手続きに進みます。
基本合意書で大まかな契約内容の枠組みはできているので、それをベースとしてデューデリジェンスを加味して最終条件を詰めていきます。
もしデューデリジェンスで何か重大な問題がみつかった場合、条件の大幅な変更や内容によっては破棄も含めて検討していくことになります。
特に問題がない場合は、基本合意書の内容をおおむね採用したうえで、細かい内容を詰めていくことになります。
6.最終契約書の締結
最終条件交渉によって最終的な契約内容が固まったら、その内容を最終契約書として締結します。具体的には、株式譲渡の場合は株式譲渡契約書、事業譲渡の場合は事業譲渡契約書が最終契約書となります。
最終契約書が基本合意書と異なるのは、法的拘束力があることです。最終契約書の内容に違反した場合は、損害賠償など罰則の対象となることがあります。
7.クロージング
最終契約書を締結したら、その契約内容に基づいてM&Aを実行する、クロージングの手順に入ります。具体的なクロージングの手順は、選んだM&Aスキームによって大きく変わってきます。
例えば、株式譲渡なら売り手側は株主名簿の書き換え、買い手側は対価の支払いなどを行います。株主名簿の書き換えには、株主総会の決議が必要になるので注意しましょう。
もしクロージングの手順に不備があると、M&A自体が成立しなくなってしまう恐れもあるので、専門家の指導のもとで確実に遂行する必要があります。
8.統合プロセスの実施
クロージングが終わって経営権の移行手続きが済んだら、それで全て完了というわけではありません。
売り手企業と買い手企業は今まで別々に活動してきているので、親会社・子会社として協力して事業を進めていくためには、お互いの企業のすり合わせを行う必要があります。
このすり合わせ作業を「統合プロセス」または「PMI(Post Merger Integration)」といいます。
統合プロセスの手順としては、例えばお互いの企業の業務システムを統一して、混乱が起こらないようにしておく、または従業員の給与や待遇に差がないようにして、不満が出ないように対処しておくことなどがあります。
こういった実務的な手順に加えて、いわゆる企業風土など精神面のすり合わせというのも、実は実務面以上に重要です。精神面のすり合わせに失敗すると、従業員が働きづらくなり退職してしまう可能性もあります。
【関連】PMIとは?初めてのM&Aでもシナジー効果を最大化させる方法を解説
M&Aの手順を円滑に進めるためには

M&Aの手順は非常に複雑なので、円滑に進めるためのポイントを押さえておく必要があります。この章では、主なポイントとして以下の6点を解説していきます。
【M&Aの手順を円滑に進めるためには】
- 準備段階で入念に計画する
- M&Aの専門家選びを慎重に行う
- 自社の企業価値を明確に確認する
- 業界需要・タイミングを逃さない
- 会計上の問題が発生しないように注意する
- 情報の漏洩に注意する
1.準備段階で入念に計画する
M&Aの手順を全て終えるには、早くても三か月、長い時は一年以上かかるといわれています。この長丁場を乗り切るためには、あらかじめ計画をしっかり練っておくことが重要になります。
もちろん、実際にM&Aの手順を行うと、計画どおりにいかないこともよくあります。しかし、計画により手順の全体像を把握しておくのは、M&Aを成功に導くために有効です。
2.M&Aの専門家選びを慎重に行う
M&A仲介会社というのは、中小企業を専門にしているところや、薬局やITなど特定の業種に特化したところなど、さまざまな形態があります。
さらに、主に事業承継を扱う仲介会社や、事業規模の拡大をコンサルティングする仲介会社、クロスボーダーM&Aを手がける仲介会社など、各社がそれぞれの経営理念のもとでサービスを提供しています。
M&A仲介会社選びにおいては、自社の規模や業種、M&Aの目的などに合わせて、最も適した専門家を選ぶことが重要です。
3.自社の企業価値を明確に確認する
M&Aの目的は皆それぞれですが、どのような目的にしろ、売却価格がいくらになるかは重要です。相手の交渉の言いなりになって、納得いかない価格で契約することは避けなければなりません。
非上場企業がM&Aを行う時に重要なのが、会社の価値を明確にしておくことです。上場企業のように時価総額が分からない会社のM&Aでは、企業価値評価が重要な指標になります。
企業価値評価は使用する手法によって価格の見積もりが変わることがあるのに加えて、誰が評価するかによっても変わってくる部分があります。正しい評価をしてもらうためには、セカンドオピニオンを立てるというのも一つの考え方です。
4.業界需要・タイミングを逃さない
業界動向や製品・サービスの流行り廃れは、M&Aの成功を左右することがあります。M&Aを行う際は、業界需要やタイミングを逃さないことも重要です。
では、どうやってタイミングを逃さないようにすればいいかというと判断が難しい部分もありますが、例えば、同業種の上場企業の株価が好調な時はよい売りタイミング、といった考え方もあります。
5.会計上の問題が発生しないように注意する
M&Aの買い手にとって、会計上の問題がある会社は買収したくないのが本音です。飛ばしや粉飾決算は論外ですが、簿外債務や偶発債務がかなり発生している会社は多いと考えられます。
M&Aを行う際は、準備段階で自社の会計をあらためて見直して、買い手にとってマイナス材料となる部分を解決しておくことが大切です。
6.情報の漏洩に注意する
情報漏洩によって、M&Aが失敗に終わるというケースも少なくありません。M&A仲介会社や売買相手の企業に対する秘密保持は当然ですが、それに加えて、自社内での情報漏洩にも注意しておくことも大切です。
例えば、社内でM&Aについて話しているのを従業員が聞いてしまい、周りに話すことで噂が広まりM&Aが頓挫してしまうケースもあります。M&Aを成功させるには、社外・社内での情報漏洩に注意するようにしましょう。
M&Aの相談はM&A総合研究所へ

M&Aの手順は非常に複雑なので、M&A仲介会社など専門家のサポートを得ることが不可欠です。M&Aをお考えの方は、ぜひM&A総合研究所へご相談ください。
M&A総合研究所では、経験豊富な公認会計士・弁護士・アドバイザーの3名体制で、中堅・中小企業のM&Aをクロージングまでフルサポートいたします。
M&A成約までの期間が平均3か月から6か月というスピード、希望売却価格より平均124%アップでの成約実績などが強みで、M&A成約率75%、お客様満足度91%を達成しています。
着手金・中間金無料の完全成功報酬制を採用しており、コストを抑えてM&Aを行うことが可能です。無料相談を24時間受け付けていますので、M&Aをお考えの方はお気軽にお問い合わせください。
まとめ

本記事ではM&Aの手順について、準備段階からクロージングまで解説しました。M&Aの手順の全体的な流れを把握しておけば、初めてのM&Aでもスムーズに進めることができるでしょう。
【M&Aの手順【準備】】
- M&A戦略・目的の確認
- M&Aの専門家に相談・契約
- M&A手法の決定
- 業界調査
- 提案資料の作成
【M&Aの手法一覧】
- 株式譲渡
- 事業譲渡
- 株式交換
- 株式移転
- 会社合併
- 会社分割
- 資本提携
- 業務提携
- 資本業務提携
【M&Aの手順【具体的な流れ・プロセス】】
- M&A先の選定・交渉
- トップ同士の面談
- 基本合意書の締結
- デューデリジェンスの締結
- 最終条件交渉
- 最終契約書の締結
- クロージング
- 統合プロセスの実施
【M&Aの手順を円滑に進めるためには】
- 準備段階で入念に計画する
- M&Aの専門家選びを慎重に行う
- 自社の企業価値を明確に確認する
- 業界需要・タイミングを逃さない
- 会計上の問題が発生しないように注意する
- 情報の漏洩に注意する