
M&Aの費用には、M&A仲介会社への手数料に加えて、監査費用や税金などさまざまなものがあります。
本記事では、M&Aを実行する際に必要となる費用について、各項目を一つずつ詳しく解説していきます。買い手と売り手の立場の違いで、費用がどのように変わるかも言及します。
目次
M&Aにかかる費用とは

近年、M&Aを事業承継や事業拡大に活用する企業が増えています。しかし、M&Aを行うためにはさまざまな費用がかかるので、コスト面でM&Aの実行を躊躇してしまう方もいるでしょう。
また、M&Aに必要な費用というのは、初めての方にとって分かりにくい部分があります。M&Aを実行したものの費用が思ったよりかかってしまい、予定していた利益を得られないという事態は避けなければなりません。
M&Aを成功させるには、どのような費用がどれくらいかかるのか把握しておくことが重要です。
M&Aとは
M&Aとは大まかにいうと、会社を売買する行為です。現金や株式を対価に会社を買収・売却し、経営者を交代して新しい会社の傘下に入ります。
一口にM&Aといっても、その手法にはいろいろな種類があります。最も一般的なのは株式譲渡で、これは会社の株式を売却して経営権を譲り渡し、対価として現金を受け取ります。
次によく使われるのは事業譲渡であり、会社そのものの売買は行われないのが特徴です。事業譲渡では株式ではなく事業資産を売買し、事業を個別に譲り渡します。
ほかにも大企業の組織再編などでは、会社分割・会社合併・株式交換・株式移転などが使われます。さらに会社を買収しない広義のM&Aとして、資本提携・業務提携・資本業務提携といった手法もあります。
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M&Aの際に費用を支払う相手とは
M&Aの際に費用を支払う相手は、費用の種類によって変わってきます。主な相手はM&A仲介会社で、仲介会社に支払う仲介手数料は最もコストのかかる費用の一つとなります。
そのほか、資料作成やデューデリジェンスを弁護士や税理士などに依頼した場合は、別途その費用を支払うことになります。もちろん、買収側が売却側に支払う対価も、M&Aにおける主要な費用の一つです。
M&Aの際にかかる費用として、税金も重要な位置を占めます。税金を支払う相手は国や地方自治体ですが、売却価格が大きいと額も相当なものになるので、どれくらい税金がかかるか理解しておくことも重要です。
M&Aの費用のまとめ

M&Aで必要となる費用は、相談先としてM&A仲介会社を利用するのか、それとも事業引継ぎ支援センターなどの公的機関を選ぶのかによっても変わり、どの仲介会社を選ぶのか、M&Aのスキームはどれを選択するのかなど、さまざまな条件によって変わってきます。
しかし、どの相談先やスキームを利用するにしろ、以下に示した5つの費用は、M&Aにおける主要な費用として必要となります。
この5つの費用について理解しておけば、M&Aの際にどれくらい費用がかかるか掴めるようになるでしょう。
【M&Aの費用のまとめ】
- M&A仲介手数料・各種経費
- デューデリジェンス(買収監査)の費用
- 人件費
- 買収費用
- 税金
①M&A仲介手数料・各種経費
M&A仲介手数料は、M&A仲介会社などの専門家にM&A仲介業務を依頼した時にかかる費用です。
M&A仲介手数料のシステムはM&A仲介会社によって異なりますが、一般的には着手金・中間報酬・成功報酬といった費用がかかります。
着手金はアドバイザリー契約の締結時に支払う費用、中間報酬は基本合意時に支払う費用、そして成功報酬は成約時に支払う費用です。
M&A仲介会社によっては、M&A仲介業務によって生じた各種経費を別途請求することもあります。具体的には資料作成の費用や交通費・通信費、デューデリジェンスを専門家に依頼した時の費用などです。
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M&A仲介手数料・各種経費が必要な理由
M&A仲介手数料・各種経費が必要な理由ですが、まず成功報酬はM&A仲介業務における主要な費用なので、どの仲介会社でも必ず請求されます。
着手金は、本格的なM&A仲介業務に入るための資料作成や、売買相手の選定といった作業に対する費用として必要になります。
中間報酬は成功報酬の一部を前払いするもので、成約しなくてもM&A仲介会社がある程度の利益を得るための保険という意味合いもあります。各種経費については、例えば資料作成の費用や交通費・通信費などの実費として必要になります。
②デューデリジェンス(買収監査)の費用
デューデリジェンスとは、買収する側の企業が売却する側の企業の内容を調査することで、買収監査と呼ばれることもあります。
デューデリジェンスは基本的に買収する側の企業が売却する側の企業に対して行うもので、売却する側の企業が買収する側の企業を監査することはありません。よって、デューデリジェンスの費用は買収する側の企業だけにかかることになります。
ただし場合によっては、売却する側の企業が自社の内容を自ら監査する、「セルサイド・デューデリジェンス」が行われることもあり、この場合は売却する側の企業が費用を負担することになります。
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デューデリジェンスが必要な理由
M&Aでは、今までお互いに面識の無かった会社同士が交渉し、契約を締結して新しい経営者となります。
買い手としては売り手側企業は今後自社の子会社となるわけですから、買収した後になって問題が発覚しては困ります。
特に、多額の簿外債務があると買い手はそれを引き継ぐことになるので、不要な負債を背負ってしまうことになります。例えば、未払いの残業代などは、買い手にとってマイナス要因となる簿外債務です。
買収した後に売り手側企業に問題が発覚して困らないために、M&A契約を締結する前にデューデリジェンスを行っておく必要があります。
③人件費
M&Aに際しての人件費というと、主にM&A仲介会社へ支払う手数料ということになりますが、場合によってはそれ以外の人件費がかかる場合もあります。
例えば、M&Aの相談先としてM&A仲介会社以外を選んだ場合は、その相談先に対する人件費がかかります。
M&A仲介会社以外の相談先とは、例えば銀行や信用金庫などの金融機関、会計士事務所や弁護士事務所などの士業事務所です。
士業事務所にM&Aの相談をした場合は、弁護士や会計士がカバーできない業務を外部に委託することがあるので、別途人件費がかかる場合もあります。提携のM&A仲介会社に改めて依頼するケースも多いので注意しましょう。
人件費が必要な理由
例えば、弁護士業や不動産業などは、資格や許認可を持っている人しか行うことができないので、必ず専門家に相談しなければなりません。
一方で、M&Aを行うこと自体は資格や許認可を必要としないので、経営者の方が自分で全ての手続きを行い、人件費をかけずにM&Aを行うことも可能ではあります。
しかし、M&Aというのは、会計や税務の専門家ではない経営者の方が独力で行うのは難しいのが実情で、やはり人件費をかけてM&A仲介会社などの専門家に相談する必要があるでしょう。
④買収費用
買収費用とは、買い手が売り手側企業を買収する時に支払う費用のことです。買収費用は買収する会社の規模によって大きく異なり、零細企業や個人事業なら数百万円程度のこともありますが、大企業のM&Aでは1兆円規模の費用がかかることもあります。
買収費用は、基本的には現金を用意することになりますが、M&Aの手法によっては現金ではなく自社の株式を対価として交付することもあります。この場合、買収費用は株価によることになるので、現金より正確な買収費用を見積もるのが難しくなります。
買収費用は、買い手側が自己資金で用意するのが一般的ですが、金融機関やファンドからの融資で調達する場合もあります。
なかには、売り手側が買収費用を背負うLBO(レバレッジド・バイアウト)という手法もあり、M&Aにおける買収費用の捻出の仕方はいろいろあります。
買収費用の決め方
買収費用の決め方は、最終的には買い手と売り手が交渉し、お互いが納得した額ならそれでよいということになります。
しかし、お互いの言い値だけでは相場が分からないので、バリュエーション(企業価値評価)を行って理論的な適正価格帯を見積もっておくのが一般的です。
バリュエーションの手法はいくつかあり、資産と負債をもとに算出する方法や、将来的なキャッシュフローを予想する手法などがあります。上場企業の場合は市場株価があるので、時価総額から適正な売却費用を見積もることができます。
買収費用は最終的には買い手と売り手が納得するかどうかなので、バリュエーションと大きく乖離した額を買収費用とすることもあります。特に将来性が高い企業を買収する場合、買収費用がバリュエーションよりかなり高くなることがあります。
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⑤税金
M&A仲介会社への手数料、買い手側の買収費用とともに、大きな負担となるのが税金です。税金は対価を受け取った売り手側企業が負担するもので、その額はM&Aに利用したスキームによって変わってきます。
M&Aで発生する税金の種類
例えば、株式譲渡の場合は株主が個人なら譲渡益の20.315%が所得税となり、法人なら他の損益と通算して法人税が課せられます。
事業譲渡の場合は、売却した事業資産の対価に対して、個人事業なら所得税、法人なら法人税がかかります。
株式譲渡の場合、適正価格と大きく乖離する価格で譲渡すると、みなし譲渡税や贈与税がかかることもあります。
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M&Aの際にかかる弁護士費用の目安

M&Aを行うためには、弁護士のサポートを得ることが欠かせません。そのため、M&Aの際にかかる弁護士費用の目安を知っておくことが大切です。
買い手側にかかる費用の目安
M&A仲介会社ではなく弁護士事務所にM&A仲介を依頼した場合は、仲介手数料を弁護士事務所に支払うことになります。
弁護士事務所のM&A仲介手数料は事務所によりまちまちですが、M&A仲介会社のシステムにならって、成功報酬や着手金などを請求することが多いです。
費用の目安としては、着手金が数十万円から100万円程度、成功報酬が買収費用の5%程度みておけばよいでしょう。
また、それ以外に月額報酬が月数万円程度、書類作成などの実費が数万円程度かかる場合もあります。
売り手側にかかる費用の目安
売り手の場合も同様に弁護士事務所にM&A仲介を依頼した場合は、弁護士事務所に仲介手数料を支払うことになります。支払う費用の目安は買い手側の場合とおおむね同じです。
弁護士にM&Aの相談をするメリット
弁護士は法律の専門家なので、M&Aを行う際に関係する法律に強いのがメリットです。また、交渉中や成約後に何かトラブルが起こった場合でも、弁護士に相談しておけばスムーズに対応してもらえます。
M&Aの際にかかる監査費用の目安

M&Aの際にかかる費用として見落としがちなのが、監査(デューデリジェンス)の費用です。監査費用がいくらになるかは監査をどれくらい精密に行うかによっても変わりますが、想像以上に大きな負担となることもあります。
監査費用の目安を知っておくことは、M&Aを成功させるために重要なポイントの一つだといえるでしょう。
監査費用とは
監査費用とは、買い手側企業が売り手側企業の監査(デューデリジェンス)を行うために必要となる費用です。
デューデリジェンスには、どの分野を監査するかによって、法務デューデリジェンス・財務デューデリジェンス・ビジネスデューデリジェンスと、さまざまな種類があります。
つまり、どのデューデリジェンスを行うかによって依頼すべき専門家も変わるので、それに合わせて費用が決まることになります。
監査費用の内訳
監査費用の内訳は、どの分野のデューデリジェンスを行うかによって変わってきます。例えば財務デューデリジェンスなら、財務諸表の調査が主な費用の内訳となります。
ビジネスデューデリジェンスでは、売り手側企業の実際の業務をみるため、担当者が売り手側企業を実際に訪問して、役員などにインタビューを行うこともあります。この場合、訪問費用も監査費用の内訳となります。
監査費用の目安
監査費用をいくらに設定しているかは事務所によっても異なりますが、財務デューデリジェンスや法務デューデリジェンスの場合、一般的には時間あたり数万円、一日あたり10万円から40万円くらいに設定していることが多いです。
一方、ビジネスデューデリジェンスの場合は、時間あたりではなく成果報酬で数十万円程度かかるのが一般的です。
どのデューデリジェンスを行うにしろ、大まかな費用の目安としては、数十万円から100万円程度見ておけばよいでしょう。
M&Aの際にかかる仲介会社費用の内訳と相場

M&Aの際にかかる費用には内訳が分かりにくいものがありますが、M&A仲介会社に支払う費用もその一つです。M&A仲介会社に支払う費用は仲介会社によっても違うので、なおさら分かりにくくなる面があります。
M&Aの際にかかる仲介会社費用の内訳としては、以下のようなものが挙げられます。ただし、これらの費用を全て請求するM&A仲介会社はあまりなく、ほとんどの仲介会社では、成功報酬を含むこの中のいくつかの料金だけが請求されます。
【M&Aの際にかかる仲介会社費用の内訳】
- 相談料
- 着手金
- 中間金
- 成功報酬
- リテイナーフィー(定額顧問料)
- デューデリジェンス費用
- 業務実行にかかる実費
相談料
相談料は初期相談に対してかかる費用で、具体的にはアドバイザリー契約を締結する前の相談に対して請求されます。
アドバイザリー契約締結後の相談は、費用が着手金や成功報酬に含まれているので、別途相談料を請求されることはありません。
相談料の設定はM&A仲介会社によって異なりますが、一回数千円から一万円程度に設定していることが多いようです。
しかし、相談料を請求するM&A仲介会社は非常に少なく、ほとんどの場合は無料に設定されています。
着手金
着手金とは、初期相談を終えて本格的な仲介業務に入る際に支払う料金です。具体的には、アドバイザリー契約を締結した時点で発生します。
着手金の額はM&A仲介会社によって違いますが、数十万円から200万円程度に設定しているところが多いです。
最近では着手金を請求するM&A仲介会社は比較的少なく、無料にしている仲介会社の方が多い傾向があります。
中間金
中間金または中間報酬とは、基本合意書を締結した時点で支払う費用のことです。基本合意とは、買い手と売り手の経営者同士が交渉した結果、基本的な合意内容が固まった時点で交わす契約のことです。
中間金の費用は、成功報酬の10%程度に設定しているM&A仲介会社が多いです。中間金は成功報酬の前払いの形を取るので、中間金をとる仲介会社ととらない仲介会社とで、最終的な費用に違いがないのが一般的です。
中間金は成約しなくても返金されないので、もしデューデリジェンスで問題が発覚して破談になった場合は、M&Aを成約できなかったのに料金だけとられてしまうことになります。
成功報酬
成功報酬とは、M&Aの最終契約を締結し、M&Aが確定した時点で支払う費用です。成功報酬は対価を受け取った売り手だけでなく、買い手も支払うのが一般的なので注意しましょう。
成功報酬の額の決め方は、売却金額に一定料率をかけた「レーマン方式」というシステムが一般的です。さらに、売却金額が非常に少額の場合は、最低報酬額が適用されることもあります。
レーマン方式について
レーマン方式とは、売却価格が高くなるほど、料率を下げるという計算方法です。一例としては、以下の表のように料率を計算します。
料率の設定はM&A仲介会社によって違うことがあるので、利用する仲介会社の料率を必ず確認しておきましょう。
M&A仲介会社によっては、売却金額に負債の額などをプラスすることもあるのが注意点です。この場合は売却金額のみに料率をかけるより、費用が高くなることがあります。
【一般的なレーマン方式の料率】
取引金額 | 料率 |
5億円以下の部分 | 5% |
5億円超から10億円までの部分 | 4% |
10億円超から50億円までの部分 | 3% |
50億円超から100億円までの部分 | 2% |
100億円超の部分 | 1% |
【関連】レーマン方式とは?M&A仲介会社に支払う報酬の計算方法を解説
リテイナーフィー(定額顧問料)
リテイナーフィーとはいわゆる月額報酬のことで、定額顧問料と呼ばれることもあります。M&Aが成約するまでにかかる期間は事例によって大きく異なるので、交渉が長引いてリテイナーフィーが高額になる可能性もあるので注意が必要です。
しかし、リテイナーフィーを請求するM&A仲介会社は少数派で、ほとんどの仲介会社では無料に設定されています。
逆にいえば、リテイナーフィーは採用しているM&A仲介会社が非常に少ないので、相場が分かりにくいのが実情です。
リテイナーフィーのあるM&A仲介会社を選ぶ時は、その会社のリテイナーフィーがいくらになるか確認しておきましょう。
デューデリジェンス費用
デューデリジェンスの費用は監査費用の章でも解説したとおり、数十万円から100万円程度が相場だと考えられます。
業務実行にかかる実費
M&A仲介会社に仲介業務を依頼する際、書類の作成費や交通費など、業務実行にかかる実費を別途請求されることもあります。
こういった実費の相場は把握しづらいですが、せいぜい数万円から10万円程度に収まることが多いと考えられます。
費用を抑えられる完全成功報酬制のM&A仲介会社

M&A仲介会社に支払う費用は、着手金・中間金・成功報酬など、さまざまな種類があります。
仲介会社のなかには成功報酬以外の費用を全て無料とする「完全成功報酬制」を採用しているところもあり、費用を抑えるなら完全成功報酬制の仲介会社を利用するのがおすすめです。
M&A総合研究所は、完全成功報酬制を採用しているM&A仲介会社です。当社では、成果に関係なく支払わされる着手金や中間金などの料金には問題があると考えており、創業から成功報酬以外はいただかないという方針を貫いています。
費用が安いとサービスの質が落ちるのではと心配する方もおられると思いますが、M&A総合研究所では、経験豊富な会計士・弁護士・アドバイザーが3名体制でフルサポートするため、サービスの質も高いクオリティを誇っています。
無料相談は24時間お受けしていますので、費用を抑えたM&Aをご希望の方は、電話かWebよりお気軽にお問い合わせください。
まとめ

M&Aの費用には、M&A仲介会社への手数料以外にもさまざまなものがあるので、どれくらいの費用がかかるか把握したうえで、M&Aを実行することが重要になります。
後になって費用が予想外に膨らんでトラブルになることがないよう、費用の種類や相場について理解しておきましょう。
【M&Aの費用のまとめ】
- M&A仲介手数料・各種経費
- デューデリジェンス(買収監査)の費用
- 人件費
- 買収費用
- 税金
【M&Aの際にかかる仲介会社費用の内訳】
- 相談料
- 着手金
- 中間金
- 成功報酬
- リテイナーフィー(定額顧問料)
- デューデリジェンス費用
- 業務実行にかかる実費