
M&Aを実施すると相応の税金が課せられます。M&A後の計画的な資金運用のためにも、M&A後に課せられる税金や税務について把握しておかなくてはなりません。本記事では、M&Aでかかる税務や税務、売り手・買い手の節税対策を解説します。
目次
M&Aでかかる税金と税務

近年では、経営戦略の一環としてM&Aが利用されることが多くなっています。企業が抱える経営問題の解決や効果的な企業成長を図れる画期的な戦略であり、目的に合わせた最適な手法を選択することで得られる効果を最大化することができます。
しかし、M&Aの手法を選択するうえでは、税金・税務にも注意しておく必要があります。というのは手法によって得られる効果が違うように、課せられる税金も大きく違ってくるためです。
M&A後に残る資金を少しでも多く保って計画的な資金運用をするためには、M&Aの税金・税務について把握しておくことが大切です。
M&Aとは
M&Aとは、企業の合併や買収の総称です。2つ以上の会社を1つに統合したり、ある会社が他社を買い取ったりすることを意味します。
M&Aはあくまでも広義的な言葉であり、実際に用いる手法には株式譲渡や事業譲渡などがあります。それぞれ効果は異なっており、売り手と買い手の双方の目的を達成できる手法を選択することでM&Aが成立します。
M&Aに関連する各種税金
M&Aでは、売り手と買い手の双方に税金が発生します。取引規模に応じた税金が課せられるため、高額取引になる傾向が強いM&Aにおいて、M&A当事者の税金負担はとても大きいものになっています。
M&Aで発生する主な税金には以下のとおりですが、全ての税金が同時に発生するわけではなく、利用する手法によって税金・税率が異なります。それぞれの手法と税金・税務については、次章で詳しく解説します。
【M&Aに関連する各種税金】
- 所得税
- 住民税
- 復興特別所得税
- 法人税
- 消費税
【関連】会社譲渡にかかる税金とは?種類や計算方法、節税対策まで解説
M&Aの手法別にみる税金・税務とその特徴

M&Aの税金・税務は、利用する手法によって数百万円あるいは数千万円以上の違いが生まれる可能性もあります。
この章では、M&Aで利用されることが多い手法3つの税金・税務について解説します。目的の達成と税金・税務のバランスを両立できる手法を検討してみましょう。
株式譲渡
株式譲渡は、売り手が保有する株式を譲渡して経営権を移転させる手法です。株式会社においては保有株式が1/2を超えることで経営権を取得できるので、株式の譲渡で会社売却が成立する仕組みになっています。
特徴は包括承継という点です。会社の資産を移動するというよりは経営者が入れ替わるイメージなので、会社が保有する全ての資産を自動的に引き継ぐことができます。中小企業のM&Aで最も利用される手法です。
売り手側
株式譲渡で売り手側に発生する税金は個人・法人で異なります。「株式会社であっても個人なのか」と疑問に感じるかもしれませんが、株式は個人で所有することが認められており、必ずしも法人所有であるとは言い切れません。
実際に、中小企業の株式は経営者が100%保有していることも多く、M&Aで獲得する売却益は全て経営者に入るケースも珍しくありません。そのため、個人が所有する株式を譲渡する場合は個人の所得となり、税金も個人に対して課せられることになります。
①個人の税金・税務
個人の場合、分離課税として株式の譲渡所得に税金が課せられます。1年の収支に関係なく株式譲渡が成立した時点で税金が発生する仕組みであり、譲渡所得の計算方法と税率は以下の通りです。
【株式の譲渡所得の計算方法】
- 譲渡所得 = 売却額 – (株式の取得費用 + M&Aに要した費用)
【株式譲渡(個人)の税金・税務】
- 所得税(15%)
- 住民税(5%)
- 復興特別所得税(0.315%)
②法人の税金・税務
法人の場合は1年間の収益に対して法人税が課せられます。また、必ずしも株式の譲渡所得全てに対して、法人税が課せられるわけではありません。
法人税率は、会社の資本金や1年間の収益によって変動します。譲渡所得に対して法人税率30%前後を掛けて税金が算出されます。
【法人の税金・税務】
- 法人税
- 法人事業税
- 法人地方税
- 法人住民税
買い手側
株式譲渡の買い手には税金はかかりません。ただし、無償譲渡である場合は、譲渡資産の評価額から一定の控除額を差し引いた基礎控除後の課税価格に対して、贈与税が課せられます。
贈与税率は、基礎控除後の課税価格に応じて10~50%の振れ幅があります。なお、有償譲渡の場合は関係ないので特に気にする必要はありません。
事業譲渡
事業譲渡は、事業の全部あるいは一部を譲渡する手法です。経営権の移転は伴わないので、特定の事業の売買したい時に活用されます。
特徴は、譲渡対象を自由に選択できる点です。売り手側は不採算事業を切り離して事業の選択と集中を、買い手側は特定の事業を取得して効果的な事業規模の拡大を図ることができます。
売り手側
事業譲渡の売却益は会社に支払われます。会社の所得として扱われるため、法人税が会社に課せられることになります。
課税対象は売却額ではなく、売却額から簿価を差し引いた金額です。売却益に対して約30%前後の法人税率を掛けて税金を算出します。
【事業譲渡の売却益の計算方法】
- 売却益 = 売却額 – 譲渡事業・資産の簿価
【事業譲渡の税金・税務】
- 法人税
- 法人事業税
- 法人地方税
- 法人住民税
買い手側
事業譲渡の買い手側にかかる税金は消費税です。取得した資産を課税資産と非課税資産に分類して、課税資産に対して消費税10%が課税されます。
【課税資産】
- 有形固定資産(土地を除く)
- 無形固定資産
- 棚卸資産
- 営業権(のれん代)
営業権とは、譲渡事業・資産の簿価より高い評価で取引が行われた際に発生する科目です。目にみえない資産を評価したことで発生するものですが、この営業権に対しても同様に消費税が課せられます。
その他
株式譲渡や事業譲渡以外で利用されることが多いM&A手法には、会社分割があります。会社分割とは、事業の全部あるいは一部と関連する権利義務の全てを承継する手法です。
譲渡対象が事業という点で事業譲渡と似た効果を得られますが、事業ごとの包括承継ができる点で大きく異なります。従業員や取引先の引き継ぎに関して個別に同意を得る必要がないので、円滑に進められる特徴があります。
また、会社分割は組織再編として活用されることが多いため、税金・税務における優遇措置が取られています。
売り手側
会社分割の売り手に課せられる税金は法人税です。譲渡する資産・事業の時価評価を行い、簿価との差額を売却益として法人税が課せられます。
ただし、適格要件を満たすことで課税措置を取られなくなることがあります。適格要件を満たせる場合は、売り手側の税務負担を大幅に抑えることが可能です。この仕組みを利用して事業譲渡ではなく会社分割を利用することも多くなっています。
買い手側
事業譲渡とは異なり、会社分割は不課税取引とされているので、消費税が課せられることはありません。
【関連】【会社売却で発生する税金の全知識】節税するコツまで徹底解説!
税金・税務のかからないM&A手法はある?

M&Aの税金・税務は当事者にとって負担が大きいものです。少しでも税金・税務の負担を減らしたいというのが本音ですが、実は税金・税務が一切かからないM&A手法も存在します。
合併
合併は、2つ以上の会社を1つの会社に統合する手法です。1つの会社を除き全ての会社を消滅させ、残された会社に権利義務を全てを承継します。
合併を行う最大のメリットは、会社統合による事業シナジーの最大化です。技術・ノウハウや販路、事業エリアなど、それぞれの会社の経営資源を統合することで効果的に事業展開することができるようになります。
合併の税金・税務
合併は適格要件を満たして適格合併とすることで税金・税務がかからなくなります。適格要件は存続会社と消滅会社の関係性によって条件が異なります。
【完全支配関係の適格要件】
- 対価の支払いが株式のみであること
- 合併前より完全支配関係にあり、合併後も完全支配関係が維持されること
既に完全支配関係にある会社同士の合併であれば、上記のように非常に緩い条件になっています。次に全く関係性がない場合の適格要件をみてみましょう。
【支配関係がない場合の適格要件】
- 対価の支払いが株式のみであること
- 合併にあたり交付される株式について支配株主による継続した保有が見込まれること
- 合併直前の従業者80%相当の継続雇用が見込まれること
- 合併前の主要事業が合併後も継続して営まれること
- 存続会社と消滅会社の事業に関連性があること
- *以下の要件のどちらか一方を満たすこと
- 存続会社と消滅会社の「売上高・従業者数・資本金」の差が5倍を超えないこと
- 存続会社の役員1名以上と消滅会社の特定役員1名以上が合併後の特定役員になること
支配関係にない会社同士が合併する場合は、上記要件を満たすことで税金・税務がかからなくなります。
完全支配関係と比較すると条件は多くなっていますが、通常の合併であれば自然と満たせる条件ばかりなので、税金・税務を重視する際は合併も選択肢になるでしょう。
第三者割当増資
第三者割当増資は、特定の第三者に新株発行引受権を付与して増資する手法です。既存の株式ではなく新規に発行する株式を買い取ってもらうので、譲渡ではなく増資という扱いになります。
最大のメリットは円滑な資金調達が可能になることです。通常の手続きでも十分に早いですが、総数引受契約という特例措置を利用することで、最短1~2日で資金を獲得することもできます。
主に中小企業の資金調達法として活用されますが、経営権を移転させる範囲まで割当することでM&A手法として利用することもできます。
第三者割当増資の税金・税務
第三者割当増資は増資という扱いなので、売り手・買い手共に税金・税務はかかりません。ただし、有利発行(株式価値よりも安い価格による割当)の場合は、買い手側に所得税・法人税・贈与税が課せられることがあります。
中小企業の第三者割当増資は割当先を縁故者にすることも多いため、有利発行の形を取ることも多くなっています。その際は税金・税務について注意しておかなくてはなりません。
【関連】第三者割当増資とは?資金調達とМ&Aを同時に行い財務体質を強化しよう
M&Aの際に行われる売り手の節税対策

M&Aの税金・税務は、節税対策を施すことで大幅に負担を減らすことができます。この章では、売り手側の節税対策を解説します。
株式譲渡
株式譲渡は、譲渡価格から取得費用を差し引いた額である譲渡所得に対して、税金・税務がかかります。この際、株式の取得に要した費用を高く設定することで譲渡所得を抑える方法があります。
株式の取得費用は、売却額の5%に設定できる制度が設けられています。この制度を利用すれば実際に要した費用よりも高い金額を設定できることがあるので、上手に活用しましょう。
ただし、株式の取得費用が明確かつ売却額の5%相当よりも高い費用の場合は、5%設定を適用しないほうが税金・税務負担は軽くなります。
事業譲渡
事業譲渡は、個人の株式譲渡と比較すると法人税率が圧倒的に高い特徴があります。そのため株式譲渡よりも税金・税務負担が重いとみられがちですが、一概にそうとも言い切れません。
注目すべきポイントは、純粋な売却益を算出するうえで差し引く科目です。差し引く科目は株式譲渡は株式の取得費用ですが、事業譲渡は純資産の簿価なので事業成長度合いによっては事業譲渡の方が税金・税務負担を抑えられるケースがあります。
- 株式の取得費用・・・5000万円
- 純資産の簿価・・・1億円
- 売却額(営業権込み)・・・1億5000万円
上記の場合は、株式譲渡は「1億5000万円-5000万円=1億円」に対して20.315%、事業譲渡は「1億5000万円-1億円=5000万円」に対して約30%、となるので500万円相当の節税効果が得られます。
その他
ここでは、会社分割の節税対策を紹介します。会社分割は適格要件を満たすことで税金・税務がかからなくなり、大幅な節税対策に繋がります。
分割法人(売り手)と分割承継法人(買い手)の関係性に応じて、適格要件の条件が異なります。以下では、条件が最も少ない要件と多い要件を解説します。
【完全支配関係の適格要件】
- 対価の支払いが株式のみであること
- 対価は分割法人の株主が有する株式数の割合に応じて交付されるものであること
- 分割前より完全支配関係にあり、分割後も完全支配関係が維持されること
【支配関係がない場合の適格要件】
- 対価の支払いが株式のみであること
- 対価は分割法人の株主が有する株式数の割合に応じて交付されるものであること
- 分割にあたり交付される株式について支配株主による継続した保有が見込まれること
- 分割直前の従業者80%相当の継続雇用が見込まれること
- 分割前の主要事業が分割後も継続して営まれること
- 分割法人と分割承継法人の事業に関連性があること
- *以下の要件のどちらか一方を満たすこと
- 分割法人と分割承継法人の「売上高・従業者数」の差が5倍を超えないこと
- 分割承継法人の役員1名以上と分割法人の特定役員1名以上が分割後に分割承継法人の特定役員になること
M&Aの際に行われる買い手の節税対策

M&Aは買い手側にも税金・税務が課せられます。買収後の事業資金を少しでも多く確保するためには、節税対策を施して税金・税務負担を軽くすることが大切です。
株式譲渡
株式譲渡でじゃ、買い手側に税金・税務はかかりません。無償譲渡である場合は贈与税が発生しますが、M&Aにおける株式譲渡は有償譲渡が一般的なので気にする必要はないでしょう。
事業譲渡
事業譲渡における買い手側の税金・税務は、課税資産に対して消費税10%が課せられます。課税資産の割合が多い事業の取得する場合は負担が大きくなりますが、非課税資産が中心である場合は税金・税務負担を抑えられます。
また、事業譲渡は営業権(のれん代)を5年間かけて均等償却できます。償却費は経費として計上することが認められており、法人税の課税対象である収益を抑えることが可能です。
【関連】事業譲渡の消費税まとめ!計算方法や納税方法を解説!営業権はどうなる?
その他
会社分割における買い手側の税金・税務負担はありません。節税対策について気にすることもないでしょう。
M&Aでお悩みの人に最適な相談先

M&Aの税金・税務負担はとても大きく、適切な対策を施さないとM&A後の資金運用に支障がでる恐れもあります。税金・税務を踏まえたM&Aを検討の際は、M&A仲介会社であるM&A総合研究所にご相談ください。
M&A総合研究所では、M&A経験豊富なアドバイザー・会計士・弁護士の3名によるサポート体制を敷いています。
会計士は税務分野も網羅しており、M&Aの目的と節税対策を両立したM&Aプランの提案が可能です。
料金体系は完全成功報酬制を採用しています。支払う手数料は成功報酬のみのシンプルなタイプなので、税金・税務を加味した最終的な支出を算出しやすくなっています。
無料相談は24時間お受けしています。M&Aの手法や税金・税務にお悩みの際は、お気軽にご連絡ください。
まとめ

M&Aの税金・税務について見てきました。利用する手法や売り手・買い手の立場によって課せられる税金・税務は異なっており、少しでも多くの資金を残すためには適切な節税対策が求められます。
さらに実務においては売り手・買い手の交渉も並行して進めなくてはなりません。より複雑化する税務をこなすためには、税務・M&Aの専門家であるM&A仲介会社に相談することをおすすめします。
【M&Aに関連する各種税金】
- 所得税
- 住民税
- 復興特別所得税
- 法人税
- 消費税
売り手 | 買い手 | ||
株式譲渡 | 個人 | 法人 | なし |
所得税 住民税 復興特別所得税 |
法人税 | ||
事業譲渡 | 法人税 | 消費税 | |
会社分割 | 法人税 | なし |